第72話 まさかの副主将
進藤竜也がキャプテンに決まったあと。
彼は、改めて言った。
「副キャプテンを決めたいと思います」
部室に、ざわめきが広がる。
「おいおい、まだキャプテンになったばかりで、すぐ役職決めかよ」
中山太郎が、呆れたようにしていた。
「進藤……お前、役職決めが早すぎるだろう」
田中三郎は、笑いながらも、肩をすくめて言った。
進藤は続けた。
「僕が、怪我したり、調子を崩した時のために、福キャプテンは必要だと思ったんだ。だから……」
進藤は続けて。
「今回は、一年生も候補に入れます」
その言葉に、空気が少し変わった。
話し合いが始まった。
「雪夜がいいんじゃないか?」
「いや、高柳だろ」
「六条も冷静だし……」
「一年生から選ぶのもありじゃないか?」
「もう、じゃんけんで決めるか」
「いや、くじ引きでもいいかも」
だが――
やはり、まとまらない。
進藤は、小さく苦笑した。
「……多数決で決めましょう」
誰も、反対しなかった。
そして、投票が行われた。
結果が、集計される。
一枚。
二枚。
三枚――
進藤の手が、止まった。
「……え?」
全員が、進藤を見た。
進藤は、もう一度確認した。
そして、困ったように言った。
「……夏目、八票」
一瞬の沈黙。
「……えっ?」
声を上げたのは、夏目真衣本人だった。
「わ、私っ!?」
部室が、一気にざわめいた。
「そりゃあ、そうだろ」
「一番、野球部を見ているのは夏目だしな」
「俺たちのこと、全部知ってるし」
「ムードメーカーでもあるじゃん」
「副キャプテンに向いてるよ」
好き勝手な声が飛び交う。
夏目は、顔を赤くした。
「ちょっと待って!」
「私はマネージャーだよ!」
「副キャプテンなんて、無理だよ!」
部室は、笑いに包まれた。
その時。
「お前たち」
低い声が、響いた。
全員が、一斉に固まった。
監督の九条咲だった。
「私が黙っているうちに」
「ちゃんとやりなさい」
その一言で、部室は静まり返った。
進藤は、慌てて言った。
「……すみません、監督」
「夏目を除いて、もう一度投票します」
咲は、腕を組んだまま、小さく頷いた。
こうして、投票はやり直されることになった。
だが――
先ほどまでの緊張は、消えていた。
誰かが、笑っていた。
誰かが、小さく冗談を言っていた。
敗北のあと。
引退のあと。
それでも――
東鶴間高校野球部は、前に進んでいた。
新しいチームが、
確かに、動き始めていた。




