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第71話 新主将

 新しいキャプテンを決めることになった東鶴間高校野球部。


 まず、二年生の中から選ぶことになった。 


 候補に挙がったのは、三人。


 進藤竜也。


 田中三郎。


 中山太郎。 


 しかし――


 話し合いは、まとまらなかった。 


「いや……僕は向いてない」


「俺も無理だ」


「進藤のほうがいいんじゃないか?」


「いや、田中か中山のほうが――」 


 誰もが、決め手を欠いていた。


 そして、誰もが――


 どこかで、責任を恐れていた。 


 しびれを切らした監督の九条咲が言った。


「しょうがないな……」


「じゃんけんか、くじ引きか、多数決で決めるか」


 九条咲の発案に、二年生は


「監督、さすがにそれは…」


「じゃんけんとくじ引きは…」


「だったら、多数決にしましょう」


 結局、多数決で決めることになった。


 投票するのは、一年生たち。 


 結果は――


 進藤、二票。


 田中、二票。


 中山、二票。

 


 完全な、同数だった。

 


 部室に、微妙な空気が流れた。 


 咲は、小さく息を吐いた。


「……仕方ない」


「私が決める」 


 全員が、息を呑んだ。 


 咲は、三人を見た。


 進藤竜也。


 田中三郎。


 中山太郎。 


 その目には、それぞれ違うものが映っていた。 


 そして――


 咲は、口を開いた。


「新キャプテンは――」 


「進藤竜也」 


 部室が、静まり返った。 


 進藤自身も、目を見開いていた。 


「……僕ですか」 


 一瞬の沈黙の後。


 進藤は、はっきりと言った。

 

「嫌です」


 全員が、驚いた。

 

 咲は、静かに聞いた。


「なぜだ、進藤」 


 進藤は、目を伏せた。


「僕は……キャプテンに向いていません」

 

「キャプテンは、投手や捕手のように、チームの中心にいる人がなるべきです」

 

 そして――


 小さく続けた。


「それに……僕は、桜桜花戦でエラーをしました」 


 あの場面。


 三回裏。


 流れを変えた、痛恨のエラー。

 

「僕は、チームの足を引っ張った人間です」


「だから……キャプテンには、なりたくありません」

 

 咲は、しばらく何も言わなかった。

 

 そして、静かに言った。


「……だからこそだ」

 

 進藤が、顔を上げた。

 

「エラーをしたあと」


「君は、下を向かなかった」

 

「逃げなかった」

 

「最後まで、前を向いていた」

 

 進藤の目が、揺れた。

 

「進藤」


「キャプテンとは、完璧な人間がなるものじゃない」

 

「折れない人間が、なるものだ」 


 咲は、真っ直ぐに進藤を見た。

 

「私は――」

 

「君が、キャプテンに向いていると思っている」

 

「……それでは、駄目かな」

 

 部室は、静まり返っていた。

 

 進藤は、しばらく動かなかった。

 

 やがて――


 小さく息を吐いた。

 

「……僕は」

 

「目立つタイプではありません」

 

「みんなを引っ張れるかも、分かりません」

 

 それでも。

 

「それでも……」

 

 進藤は、顔を上げた。

 

「キャプテンに選んでくれるなら――」

 

 一瞬の沈黙。

 

 そして、はっきりと言った。

 

「キャプテンになります」

 

 その瞬間。

 

 部室に、拍手が響いた。

 

 進藤は、少しだけ照れたように頭を下げた。

 

「これから、キャプテンとして頑張ります」


「よろしくお願いします」

 

 拍手が、さらに大きくなった。

 

 ――新しい東鶴間高校野球部が、


 今、始まった。

 

 ……だが。

 

 進藤は、すぐに顔を上げた。

 

「それと――」

 

 全員が、進藤を見た。

 

「副キャプテンを、決めたいと思います」

 

「……えっ?」

 

 驚きの声が、部室に広がった。

 

 進藤は、真剣な顔で言った。

 

「僕一人では、このチームを支えられません」

 

「だから――」

 

「一緒に、支えてくれる人が必要です」

 

 新キャプテン進藤竜也の、


 最初の決断だった。

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