第70話 これからの話
テレビの画面が、静かに暗くなった。
誰も、リモコンを置いた瞬間を見ていなかった。
それほどまでに――
桜桜花高校の優勝は、圧倒的だった。
部室の中は、静まり返っていた。
誰も、何も言わない。
誰も、動かない。
ただ、それぞれが、自分の中の何かと向き合っていた。
――あれが、頂点。
――自分たちを倒したチームの、到達点。
その時だった。
ガラリ――
部室の扉が開いた。
監督の、九条咲だった。
咲は、部室の中をゆっくりと見渡した。
全員がいることを確認してから、口を開いた。
「みんな……揃っているな」
その声で、選手たちは我に返った。
自然と、監督へと視線が集まる。
咲は、少しだけ間を置いた。
「これからのことを、話そうと思う」
その言葉に、部室の空気が、わずかに引き締まった。
「だが――その前に」
咲は続けた。
「決めなければいけないことがある」
選手たちは、顔を見合わせた。
何のことか、分からなかった。
咲は、静かに言った。
「お前たち……次のキャプテンを、決めていないだろう」
その瞬間。
全員の時間が、止まった。
――あっ。
誰もが、同じことを思っていた。
キャプテン、渡辺貴明。
その存在が、あまりにも大きすぎた。
“キャプテン”という言葉は、
渡辺そのものを指していた。
だが――
渡辺は、もういない。
引退したのだ。
咲は、小さくため息をついた。
「おいおい……」
呆れたように、しかしどこか優しく言った。
「渡辺のあだ名がキャプテンだからと言って……渡辺は、もう引退したんだぞ」
誰も、何も言えなかった。
自分たちは、
まだ、前に進めていなかったのだ。
咲は、改めて言った。
「だから――」
「次のキャプテンを、決める」
その言葉は、
静かだった。
だが、確実に、重かった。
それは――
新しい東鶴間高校野球部の、
始まりを意味していた。
誰が、チームを背負うのか。
誰が、このチームを導くのか。
敗北の先にある、
新しい物語が――
今、始まろうとしていた。




