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第7話 高柳龍二郎

 高橋雪夜と夏目真衣は、高柳龍二郎のいる教室に足を踏み入れた。


 教室の奥。

 机に寄りかかるように座っている一人の男子生徒が、こちらを睨むように見ている。


 ――高柳龍二郎。


「初めまして、高柳君。君に少し話が――」


 雪夜が言いかけた、その瞬間だった。


「何だてめぇ……やんのか、こらぁ」


 低く、荒い声が飛んできた。


「いや、喧嘩を売りに来たわけじゃないんだけど」


「じゃあ、何の用だよ」


 明らかに敵意を隠そうとしない態度に、雪夜は一歩も引かずに答えた。


「君を、野球部に勧誘しに来た」


「……は?」


 高柳は鼻で笑った。


「野球部に勧誘だと?

 殴られたいのか?」


「殴られたくはないかな」


 雪夜は落ち着いた声で言った。


「僕は高橋雪夜。東鶴間高校野球部の者だよ」


「野球部、かよ……」


 高柳は舌打ちした。


「ちっ。面倒くせぇな」


「そう言わずに、少し話を聞いてくれないかな」


「俺は野球が嫌いなんだよ」


 即答だった。


「だから野球部には入らねぇ。

 分かったら、とっとと失せろ。目障りだ」


 一瞬、教室の空気が張り詰める。


 それでも雪夜は、静かに口を開いた。


「……肩、治っているんだろう」


 高柳の表情が、一瞬だけ変わった。


「……どうして、それを知っているんだよ」


「君ほどの選手が、中学最後の大会に出ていなかった」


 雪夜は淡々と続ける。


「何かあったんじゃないかと思って、調べたんだ」


「はっ……ご苦労なこって」


 高柳は自嘲気味に笑った。


「だったら知ってるだろ。

 俺の肩は、もう戻らねぇ。

 野球ができねぇほどにな」


「それでも」


 雪夜は、はっきりと言った。


「天才打者の腕は、落ちてないだろう。

 ――安打製造機」


「……お前」


 高柳の声が低くなる。


「馬鹿にしてんのか」


「いや」


 雪夜は首を振った。


「事実を言ってるだけだよ」


「とにかく、俺は野球はやらねぇ」


 高柳は背を向けるように言った。


「……どうして、野球が嫌いになったのか」


 雪夜は最後に問いかけた。


「教えてくれないかな」


「お前に教える理由はねぇよ」


 高柳は振り返らずに吐き捨てた。


「分かったら、とっとと帰れ」


 その時、夏目が一歩前に出た。


「雪夜君……今日は、もう帰ろう」


 これ以上続けても平行線だと悟り、二人は教室を後にした。


 廊下に出てから、夏目が静かに口を開く。


「雪夜君……これから、どうしよう」


「……しょうがない」


 雪夜は少し考えてから答えた。


「次は、彼を勧誘しに行こう」


「彼って……誰のこと?」


「僕の知り合いだよ」


 そう言って、雪夜は歩き出した。


 ――まだ、手は残っている。


 高橋雪夜と夏目真衣は、

 次なる可能性を求めて、雪夜の“知り合い”のもとへ向かった。

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