第61話 桜桜花戦、四回の攻防
スコアは――4対13。
9点差。
天宮真十郎が試合に出ていない。
それだけで、試合はもう「勝負」と呼べるものではなくなっていた。
四回表、東鶴間の攻撃。
六番・中山太郎。
七番・進藤竜也。
八番・佐々木冬次郎。
三人とも、ほとんど抵抗できないままアウトに倒れた。
打球は弱く、
スイングには迷いがあり、
ベンチに戻る足取りも重い。
あっという間に、チェンジ。
四回裏。
桜桜花高校の攻撃が始まると、
東鶴間高校は、もはや止める術を持っていなかった。
一番・小金井一。
またしてもセーフティバント。
二番・市原圭一。
粘って、粘って、投手の集中を削る。
小金井が盗塁を決める。
三番・斉藤秀一。
軽く合わせた打球が、ヒットになる。
四番・明津仁はアウトに取ったが、
五番・秋月小十郎がヒット。
六番・宮本草太郎も続く。
七番・度会小人を打ち取って、ツーアウト。
だが、八番・神谷光彦がまたもヒットを放つ。
九番・立塚尚文をようやくアウトにして、チェンジ。
それでも――
スコアボードは冷酷に示していた。
4対17。
13点差。
コールドゲームの条件が、現実味を帯び始めていた。
東鶴間のベンチで、監督の九条咲は唇を噛みしめる。
(……本当に、姉さんは……人の嫌がることを、平気でしてくる)
だが、逃げはしない。
「みんな……これが、最後になるかもしれない」
選手たちの視線が、九条咲に集まる。
「悔いの残らないように、
全力で行きなさい」
「はいっ!」
東鶴間の選手たちは声を合わせ、五回表の攻撃にそなえた
一方――
桜桜花高校のベンチは、静かに動いていた。
監督・九条神楽が、審判に告げる。
選手交代。
捕手の秋月はレフトへ。
レフトの市原はセカンドへ。
セカンドの神谷はショートへ。
投手・立塚尚文に代わり――
捕手は高早弘至。
そして。
ショート――斉藤秀一。
その斉藤が、マウンドへ向かって歩き出した。
「尚文、お疲れ様。
あとは、僕に任せてくれ」
立塚にそう声をかけると、
斉藤はゆっくりとマウンドに立つ。
桜桜花の守備が整った。
その姿を見た瞬間、
東鶴間の誰もが、理解してしまった。
――終わらせに来た。
斉藤秀一は、
東鶴間の息の根を、完全に止めるために来たのだった。




