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第50話 意外な事実

 部室の空気は、まだ重かった。


 天宮真十郎が投げられない。

 その事実が、じわじわと全員の胸に広がっていた。


 そんな沈黙を破るように、マネージャーの夏目真衣が口を開いた。


「……それから、桜桜花高校について、もう少しだけ補足します」


 誰も、軽口を叩こうとしなかった。


「桜桜花高校は、三回戦で――昨年の県大会優勝校で、全国大会準優勝の東鳳学園に勝っています」


 一瞬、時が止まった。


「……東鳳学園に?」

「あの……全国準優勝の……?」

「……無理だろ……」


 誰かの声が、震えていた。


 夏目は、言葉を選ぶように一度息を吸う。


「それから……これは、私個人としても、少し言いづらい話なんですが」


 全員の視線が、夏目に集まった。


「桜桜花高校野球部の監督は……九条咲監督のお姉さんです」


「……えっ」


 誰かが、素直な声を漏らした。


 視線が、一斉に九条咲へ向かう。


「まあ……そういうことになるな」


 九条は、淡々と答えた。


 部室に、微妙な沈黙が落ちる。


 ――こんな監督が、二人もいるのか。


 誰も口には出さなかったが、そんな思いが、全員の頭をよぎっていた。


 九条は、一度咳払いをすると、ゆっくりと言葉を続けた。


「……話が逸れたな。だが、これだけは言っておく」


 空気が、引き締まる。


「どんな試合内容になろうと、どんな結果になろうと――私は逃げない」


 九条の声には、迷いがなかった。


「お前たちに指揮を取り続ける。

 東鶴間野球部の監督としてな」


 その一言で、部室の空気が変わった。


 諦めかけていた気持ちが、少しずつ、形を変えていく。


「……やるしか、ないよな」

「天宮がいなくても……戦うしかない」


 誰かが呟いた。


 高橋雪夜は、静かに拳を握った。


 ――天宮の分まで、戦う。


 そう決めたのは、雪夜だけではなかった。


 こうして、東鶴間野球部は、

 エースを欠いたまま、強豪に挑む準備を始めた。


 逃げ道はない。

 だが――まだ、終わってはいない。

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