第5話 勧誘、再び
高橋雪夜と夏目真衣は、並んで野球部の部室へ向かっていた。
グラウンドに近づくにつれ、金属バットの音と掛け声が耳に届く。
二人の姿に気づいた野球部の面々は、次々とこちらへ近づいてきた。
「みなさん」
夏目が一歩前に出て、少し緊張した面持ちで言った。
「今日から野球部に入ってくれることになりました。
高橋雪夜君です」
視線が一斉に雪夜へ集まる。
「みなさん……」
雪夜は一度息を整え、深く頭を下げた。
「色々悩みましたが、野球部でお世話になることにしました。
高橋雪夜といいます。よろしくお願いします」
一瞬の静寂のあと、拍手が起こった。
「初めまして、高橋君」
声をかけてきたのは、一年生の六条遊人だった。
「僕は六条遊人。君と同じ一年生だよ」
「あっ……よろしく」
差し出された手を、雪夜は少し戸惑いながらも握り返した。
続いて、体格のいい三年生が前に出てくる。
「初めまして、高橋君」
穏やかな声だった。
「俺はキャプテンの渡辺貴明。よろしく」
「あっ……よろしくお願いします」
雪夜が頭を下げると、渡辺は笑顔で言った。
「君、確か捕手だったよな。俺も捕手だ。
捕手は何人いても困らない」
「はい……でも、僕は肩が弱いです」
正直にそう伝えると、渡辺は気にする様子もなく頷いた。
「構わないよ。捕手ができるってだけで武器だ。
俺と中山と君で三人になるのは、心強い」
「……そうですか」
そう答えながら、雪夜は内心で思っていた。
――多分、三番手捕手、だろうな。
だが、渡辺は本当に嬉しそうだった。
「これで、ようやく試合ができるようになったな」
周囲の部員たちも、口々に喜びの声を上げていた。
その様子を見て、雪夜は不思議と悪い気はしなかった。
――来てよかったのかもしれない。
その時、ひとり冷静な表情をしていた夏目が口を開いた。
「みなさん、喜んでいるところすみません。
ポジションは……考えていますか?」
一瞬で空気が変わった。
投手が三人、捕手が三人。
内野が二人、外野が一人。
――このままでは、試合どころではない。
「……サブポジションを守れるようにするしかないな」
そう結論が出たところで、雪夜が遠慮がちに手を挙げた。
「あの……二塁と外野なら、できます」
「おお、それは助かる」
渡辺はすぐに頷いた。
「なら、あとは一塁と外野だな」
こうして、野球部は再び練習に戻っていった。
その傍らで、雪夜と夏目は部の現状について話していた。
「雪夜君……今の野球部の実情、どう思うかな?」
「そうだね……」
雪夜はグラウンドを見渡してから答えた。
「もう一人か、二人は欲しいところかな」
「やっぱり……そうだよね」
夏目は小さく頷いた。
「高柳君と天宮君を、もう一度勧誘してみようかなって思うの」
「高柳龍二郎君と、天宮真十郎君だよね」
「知っていたんだね」
「まあ……野球が好きだから、調べていたんだよ」
「そうなんだ……。二人も雪夜君みたいに、入ってくれたらいいのに」
「とりあえず、僕も勧誘を手伝うよ」
「ありがとう、雪夜君」
夏目は、心から安心したように微笑んだ。
「すごく、心強いよ」
こうして高橋雪夜は、
野球部の一員としての第一歩を踏み出した。
そして同時に、
次の一歩――仲間を集めるという役目を背負うことになった。




