第34話 練習の日々
東栄高校との練習試合を終えて、数日が過ぎていた。
東鶴間高校野球部は、変わらずグラウンドに集まり、汗を流していた。
だが、その空気は、以前とは確実に違っていた。
「もう一度、行くよ」
天宮真十郎がマウンドでそう言うと、高橋雪夜はマスク越しにうなずいた。
「いつでもいいよ」
二人は、投球練習を繰り返していた。
球を受けるたびに、高橋雪夜は天宮真十郎の成長を感じていたし、天宮もまた、雪夜のミットが示す安心感を信じていた。
――このバッテリーなら、まだ伸びる。
そんな確信が、二人の間にはあった。
一方、グラウンドの隅では、高柳龍二郎が黙々とバットを振っていた。
カン、という音は鳴らない。
ただ、空を切る音だけが、一定のリズムで続いている。
(……打てなかった)
脳裏に浮かぶのは、佐藤秋一郎の姿。
あの球速、あの圧。
復帰戦で味わった現実が、高柳を突き動かしていた。
(打倒、佐藤秋一郎)
誰に言うでもなく、ただその幻影を相手に、バットを振り続けていた。
六条遊人は、内野で守備練習を繰り返していた。
派手さはない。
だが、一つひとつの動作に無駄がなく、送球は正確だった。
(僕には、守備しかない)
そう分かっているからこそ、六条は自分の武器を磨き続けていた。
守れる――それだけで、チームにいられると信じて。
新井元気は、打撃と守備を交互にこなしていた。
もともとは二塁手。
だが、幼馴染であり恋人でもある小山唯以外と二遊間を組みたくない――そんな不器用な理由から、外野手へと転向した。
だからこそ、外野の守備には人一倍、真剣だった。
「よし……次は落下点だな」
独り言を呟きながら、元気は何度もボールを追った。
二年生、三年生もまた、今年こそはと練習に励んでいた。
目標は一つ。
――一回戦突破。
決して高くはない。
だが、このチームにとっては、重い目標だった。
マネージャーの夏目真衣は、そんな部員たちを支えていた。
タイムを計り、声を掛け、時には背中を押す。
誰よりもチームの変化を感じ取り、誰よりも信じていた。
ただ一人――。
監督の九条咲だけは、相変わらずやる気がなかった。
全体練習には顔を出すものの、指示は最低限。
個別練習のメニューについては、雪夜と真衣に任されていた。
「……まあ、やるしかないよね」
「うん。今のうちは、それでいい」
雪夜と真衣は、そう割り切っていた。
そして、そんな日々が続くうちに――。
県大会の開幕が、目前に迫っていた。




