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322/323

第322話 三回戦から四回戦へ

 県大会四回戦に備え、東鶴間高校野球部は練習を続けていた。


 三回戦には勝利した。


 2対8。


 結果だけを見れば、危なげのない勝利だったかもしれない。


 だが、東鶴間高校には大きな課題が残っていた。


 盗塁。


 特に、高橋雪夜の肩を狙った三盗だった。


 三回戦では、相手チームが雪夜の肩の弱さを調べていた。


 出塁すれば、二盗。


 二塁へ進めば、三盗。


 東鶴間高校の弱点を徹底的に突いてきた。


 だからこそ、四回戦までの練習では、その対策にも時間を使った。


 投手陣の牽制球。


 クイック。


 雪夜の捕球から送球までの動作。


 そして、三塁手である竹田栄司の捕球とタッチ。


 もちろん、すぐに雪夜の肩が強くなるわけではない。


 できることには限界がある。


 それでも、少しでも盗塁を阻止できる可能性を上げる。


 そのために、練習を続けていた。


 それ以外にも、選手たちはそれぞれの課題に取り組んでいる。


 高柳龍二郎は打撃練習。


 六条遊人は守備に加えて、粘り打ちの練習。


 早田士郎はバントと盗塁。


 竹田栄司は三塁守備。


 投手陣も、それぞれ調整を続けていた。


 そして、四回戦が近づいたある日。


 東鶴間高校野球部の面々は、部室に集まっていた。


 監督の九条咲が、部員たちの前に立つ。


「みんな、三回戦を勝利して、次は四回戦となる」


 部員たちは静かに聞いていた。


 一回戦。


 二回戦。


 三回戦。


 三つの試合を勝ってきた。


 だが、勝ち進むほど、相手は強くなる。


 咲はその現実を分かっていた。


「四回戦は、さらに厳しい戦いが待っている」


 部室の空気が、少し引き締まる。


「相手も、こちらのデータを持っている可能性がある」


 咲は雪夜を見る。


「三回戦と同じように、盗塁を仕掛けてくる可能性は高い」


 雪夜は黙って聞いていた。


 自分でも分かっている。


 三回戦を見ていたチームなら、同じことを考える。


 肩の弱い捕手がいる。


 ならば、走ればいい。


 それは当然の作戦だった。


 咲は続ける。


「それは仕方ない」


 部員たちが咲を見る。


「二盗をすべて阻止しろとは言わない。雪夜の肩が急に強くなるわけでもないからな」


 雪夜は少しだけ苦笑した。


 事実だった。


 どれだけ練習しても、肩そのものが劇的に強くなるわけではない。


「だが、三盗は阻止しておきたい」


 咲の声が少し強くなる。


 二塁への盗塁と、三塁への盗塁では意味が違う。


 三塁まで進まれれば、内野ゴロや犠牲フライでも一点が入る。


 一つのミスが、そのまま失点につながる可能性が高くなる。


「そのために、ここまで牽制、クイック、雪夜の送球、竹田の捕球とタッチを練習してきた」


 竹田栄司も静かに頷いた。


 自分の役割が大きいことは分かっている。


 三回戦では、雪夜の送球だけが問題だったわけではない。


 投手のクイック。


 走者への警戒。


 三塁手のタッチ。


 すべてが揃って、ようやく三盗を阻止できる。


「完璧に止められるとは思っていない」


 咲ははっきりと言った。


「それでも、練習したことを試合で出してほしい」


 部員たちは頷いた。


「はいっ!」


 咲はホワイトボードの前へ移動した。


「それでは、四回戦のスタメンを発表する」


 部室に緊張が走った。


 咲は一人ずつ名前を読み上げていく。


「一番、セカンド、高柳龍二郎」


 龍二郎は静かに頷いた。


「二番、キャッチャー、高橋雪夜」


「はい」


 雪夜は返事をした。


 肩を狙われる。


 それでも、正捕手としてマスクを被る。


 逃げるつもりはなかった。


「三番、センター、新井元気」


「はいでやんす」


「四番、ライト、天宮真十郎」


 真十郎は静かに頷いた。


 今回も投手ではなく、四番ライト。


 エースとしての登板は、まだ先だった。


「五番、ファースト、浮田総二」


「はい」


「六番、サード、竹田栄司」


「はいっ!」


 栄司は力強く返事をする。


 三盗を阻止するうえでも、自分の守備は重要になる。


「七番、ピッチャー、伯方歩夢」


 歩夢が顔を上げた。


 一回戦以来の先発だった。


 一回戦では七回を無失点に抑えた。


 二回戦、三回戦と先発を外れ、休養も取ってきた。


 そして、四回戦。


 再びマウンドを任される。


「八番、レフト、早田士郎」


「はいっ」


「九番、ショート、六条遊人」


「はい」


 咲は全員を見渡した。


「以上が、四回戦のスタメンとなる」


 そして、夏目海を見る。


「海は休ませる。三回戦で完投したのが理由だ」


 海は静かに頷いた。


「はい」


 三回戦では九回を投げ切った。


 盗塁で揺さぶられながらも、最後までマウンドを守った。


 だからこそ、今は休むことも大切だった。


 次に咲は白石広志を見る。


「白石は控えで待機」


「はい」


「歩夢のスタミナがなくなったら、出番だと思ってくれ」


 広志は真剣な表情で頷いた。


「はい。いつでもいけるようにします」


 一回戦を歩夢。


 二回戦を白石。


 三回戦を海。


 そして四回戦は、再び歩夢。


 東鶴間高校は、限られた投手陣を回しながら県大会を戦っていた。


 天宮真十郎は、まだ温存されている。


 その意味を、部員たちは分かっていた。


 この先。


 本当に強い相手と戦う時のために。


 咲は最後に言った。


「四回戦からは、これまで以上に楽な試合はなくなると思ってくれ」


 部員たちは監督を見る。


「だが、私たちは三回戦まで勝ってきた」


 咲は、少しだけ表情を和らげた。


「相手がこちらを研究しているなら、こちらも対策をしてきた。その成果を見せよう」


 部員たちは声をそろえた。


「はいっ!」


 こうして、県大会四回戦のスターティングメンバーが決まった。


 一番、セカンド、高柳龍二郎。


 二番、キャッチャー、高橋雪夜。


 三番、センター、新井元気。


 四番、ライト、天宮真十郎。


 五番、ファースト、浮田総二。


 六番、サード、竹田栄司。


 七番、ピッチャー、伯方歩夢。


 八番、レフト、早田士郎。


 九番、ショート、六条遊人。


 控えには、白石広志と夏目海。


 県大会四回戦。


 東鶴間高校は、三回戦で見つかった弱点を抱えたままではなかった。


 勝つために考えた。


 練習した。


 そして、次の戦いへ向かおうとしていた。

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