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第321話 桜桜花高校対折星学園

 桜桜花高校対折星学園高校。


 その試合を、東鶴間高校野球部の面々は部室のテレビで観戦していた。


 自分たちの試合ではない。


 だが、誰も気を抜いていなかった。


 桜桜花高校。


 東鶴間高校が越えなければならない壁。


 その強豪校が、今どれほどの力を持っているのか。


 それを知るための時間だった。


 一回表。


 桜桜花高校のマウンドには、金村歳郎が立っていた。


 左のオーバーハンド。


 そこから投げ込まれるストレートは、球速は146キロを計測していた。


 速い。


 それだけではない。


 高速スライダー。


 スローカーブ。


 チェンジアップ。


 スクリュー。


 変化球も多彩だった。


 そして、その球を受けるのは双子の弟、金村好郎。


 好郎のリードも加わり、歳郎は折星学園の打線を寄せつけなかった。


 ストレートで押す。


 高速スライダーで空振りを取る。


 スローカーブでタイミングを外す。


 チェンジアップで前に出させる。


 スクリューで低めに沈める。


 折星学園の打者たちは、狙い球を絞れないまま打席を終えていった。


 一回表。


 金村歳郎は、相手チームを無得点に抑えた。


 そして一回裏。


 桜桜花高校の攻撃が始まる。


 一番、市原圭一。


 市原は打席で粘った。


 簡単には手を出さず、ファウルで食らいつき、最後はフォアボールを選んだ。


 ノーアウト、一塁。


 二番、上田荘二郎。


 上田は送りバントを決めた。


 打球は一塁方向へ転がり、市原は二塁へ進む。


 ワンアウト、ランナー二塁。


 三番、金村好郎。


 好郎は捕手でありながら、打撃でも存在感を見せた。


 甘く入った球を逃さず、ヒットにする。


 ワンアウト、一塁三塁。


 そして、四番。


 金村歳郎。


 マウンドで相手を抑えたエースが、今度は打席に入る。


 相手投手は、警戒していた。


 だが、歳郎はその警戒を上回った。


 ストレートを捉える。


 打球は高く上がり、外野の頭を越えていく。


 そのままスタンドへ入った。


 スリーランホームラン。


 初回だけで、桜桜花高校は三点を先制した。


 部室でテレビを見ていた東鶴間高校の面々は、言葉を失っていた。


 投げては146キロ。


 打ってはスリーランホームラン。


 金村歳郎の存在感は、去年よりも明らかに増していた。


 雪夜は、画面を見つめたまま呟く。


「……すごいね」


 誰もすぐには返事をしなかった。


 二回表。


 折星学園の攻撃。


 四番打者が打席に入った時だった。


 雪夜が、ふと画面を見て言った。


「あの四番……紅森じゃないかな」


 その言葉に、部室の空気が少し変わった。


 白石広志が画面を見つめる。


「本当だ……紅森ですね」


 竹田栄司も驚いたように言った。


「あいつ……折星学園に行ったのか」


 浮田総二は腕を組みながら頷く。


「どうやら、そのようじゃな」


 紅森。


 高橋雪夜、新井元気、小山唯、浮田総二、白石広志、竹田栄司にとっては後輩にあたる選手だった。


 中学時代から力だけはある打者として知られていた。


 その紅森が、今は折星学園の四番になっている。


 しかも、一年生で四番。


 それだけでも、紅森の才能が分かる。


 だが、相手は金村歳郎だった。


 歳郎は紅森に対しても、まったく怯まなかった。


 初球、外角へのストレート。


 紅森は見送る。


 ストライク。


 二球目、高速スライダー。


 紅森は反応するが、バットは空を切る。


 ツーストライク。


 三球目。


 高めのストレート。


 紅森は振った。


 だが、球の勢いに押された。


 空振り三振。


 折星学園の四番である紅森も、金村歳郎の前に倒れた。


 竹田は小さく息を吐く。


「紅森でも、打てないのかよ……」


 雪夜は画面から目を離せなかった。


 紅森は一年生とはいえ、力だけはある打者だった。


 その紅森を、歳郎は力でねじ伏せた。


 桜桜花高校の強さが、さらに濃く見えた。


 その後も、試合は桜桜花高校のペースで進んだ。


 金村歳郎は抑え続ける。


 金村好郎は的確にリードする。


 市原圭一が出塁し、上田荘二郎がつなぎ、好郎と歳郎が返す。


 下位打線も簡単には終わらない。


 桜桜花高校は、攻守ともに隙がなかった。


 折星学園も必死に食らいつこうとした。


 だが、歳郎の球を打ち崩せない。


 守っても、桜桜花の打線を止めきれない。


 四回裏が終わった時点で、スコアは0対13。


 桜桜花高校が大きくリードしていた。


 そして五回表。


 歳郎は最後まで全力で投げた。


 点差があるからといって手を抜かない。


 最後の打者にも、全力のストレートを投げ込んだ。


 空振り三振。


 試合終了。


 桜桜花高校、五回コールド勝ち。


 0対13。


 あまりにも強い勝ち方だった。


 部室には、しばらく沈黙が流れた。


 その現実を見た雪夜は、ぽつりと言った。


「なんか……去年より強くなっているね」


 六条遊人が、画面を見つめたまま言う。


「もしかして……高柳に二本もホームランを打たれたからかもしれないね」


 その言葉に、高柳龍二郎が眉をひそめた。


「なんで、俺が理由になるんだよ」


 遊人は静かに答える。


「去年の練習試合で、金村歳郎は高柳に二本打たれた。あれが悔しかったなら、意識が変わっていてもおかしくないと思うよ」


 龍二郎は黙った。


 その可能性を、完全には否定できなかった。


 監督の九条咲も口を開く。


「確かに、金村歳郎は実力もあるが、プライドも高いって……神楽姉さんも言っていたな」


 雪夜は咲を見る。


「龍二郎に打たれたことで……意識が変わったということでしょうか」


 咲は少しだけ考えてから答えた。


「そうかもしれない」


 去年、東鶴間高校は桜桜花高校との練習試合で引き分けた。


 その中で、高柳龍二郎は金村歳郎から二本のホームランを打った。


 それは、東鶴間にとって大きな出来事だった。


 だが、もしかしたら。


 それは桜桜花高校にとっても、大きな出来事だったのかもしれない。


 高柳龍二郎に打たれた悔しさ。


 それが、金村歳郎を変えた。


 エースとして成長させた。


 今の金村歳郎を目覚めさせた。


 そう思った者も、部室の中にはいた。


 龍二郎はテレビ画面を見つめる。


 そこには、勝利した桜桜花高校の選手たちが映っていた。


 金村歳郎は、笑っていなかった。


 勝って当然。


 そう言っているような表情だった。


 龍二郎は小さく呟く。


「……次に当たったら、簡単には打てないかもな」


 雪夜はその言葉を聞きながら、静かに頷いた。


 桜桜花高校は、強くなっている。


 金村歳郎も、金村好郎も。


 東鶴間高校が越えなければならない壁は、去年よりさらに高くなっていた。


 部室のテレビには、桜桜花高校の勝利が映し出されている。


 東鶴間高校の面々は、その現実を静かに受け止めていた。

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