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第32話 雪夜と秋一郎、そして…

 佐藤秋一郎の球を捕りながら、高橋雪夜ははっきりと感じていた。


(……速くなったな、秋一郎)


 かつてよりも鋭く、重い。

 それでも――捕れる。


 一方で、佐藤も思っていた。


(やっぱり……雪夜が一番だ)


 佐藤の全力投球を受け止める雪夜の姿を、東栄高校の選手たちはバスの中から見ていた。


「……あいつ、捕ってるぞ」

「佐藤の全力だろ……」

「うちで、誰が捕れるんだよ……」


 一方、東鶴間高校の面々もざわついていた。


「ちょっと待て……なんで捕れるんだ」

「本当に組んでたんだな……」

「肩が弱くなかったら……」


「おいおい……」


 高柳龍二郎が呆然と呟く。


「打つだけじゃなくて、捕れるのかよ……」


「雪夜君……」


 夏目真衣は、静かに微笑んでいた。


「みんな、ちゃんと見てるよ。

 佐藤君と雪夜君の、すごさを」


 最後の一球を受け止め、雪夜は佐藤のもとへ歩み寄った。


「秋一郎……速くなってたよ」


「ありがとう」


 佐藤は、少し照れたように笑った。


「今の僕の全力を受け止められるのは、雪夜だけだ」


「そんなことない」


 雪夜は首を振る。


「練習すれば……捕れるようになるさ」


「確証は?」


「ないよ。でも――」


 雪夜は、静かに言った。


「僕も、何度も捕ってきたから今があるんだ」


 佐藤は、息を整え、言った。


「……全国で、待ってる」


「……出来たら、の話だけどね」


 佐藤は微笑み、背を向けた。


「……もう行くよ」


「秋一郎!」


 雪夜の声に、佐藤は振り返る。


「……元気でな」


 次の瞬間、佐藤は雪夜を強く抱きしめていた。


「そんなこと言われたら……別れが惜しくなるだろ」


「……そうだな」


 雪夜も、腕を回した。


「僕も……寂しいよ」


「本当は……」


 佐藤の声が、震える。


「同じ学校に行きたかった。

でも、父さんが許してくれなかった」


「分かっているよ」


 雪夜は、静かに答えた。


「君の才能と実力なら、周りが許してくれないよ。

僕のような、肩の弱い捕手のために、強豪校を断るなんて」


「同じ学校に行こうって言っていた僕を……許してほしい」


「恨んだことなんて、一度もないよ……だから、そんなこと言わなくていいんだよ」


 しばらく、二人はそのままだった。


 その光景を、両校の選手たちは言葉を失って見つめていた。


「……泣いてる?」

「あの佐藤が……」


「……すごい二人だな」


 高柳龍二郎は、ただそう呟いた。


「良かったね……雪夜君」


 夏目真衣の声は、優しかった。


「じゃあ……本当に行くね」


「待たせるのも悪いしな」


「……元気で」


「……秋一郎もね」


 佐藤はバスへ向かい、振り返らずに乗り込んだ。


 こうして――

 高橋雪夜と佐藤秋一郎の再会は、

 静かな別れとともに、幕を下ろした。

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