第316話 二回戦から三回戦へ
二回戦を七回コールドで勝利した東鶴間高校野球部。
一回戦、二回戦と、どちらも七回コールド勝ち。
結果だけを見れば、順調だった。
だが、県大会はまだ続いている。
翌日。
東鶴間高校野球部の面々は、部室に集まっていた。
監督の九条咲が、部員たちの前に立つ。
「みんな……二回戦勝利、まずはお疲れ様」
咲の言葉に、部員たちは静かに頷いた。
二回戦。
白石広志が七回を無失点に抑え、打線もつながった。
0対8。
七回コールド勝ち。
それは確かな勝利だった。
だが、咲の表情は緩んでいなかった。
「二回戦も無事突破した」
部員たちは、咲の言葉を聞いている。
「だが、三回戦からは、相手のレベルも上がってくる……そこは現実だ」
部室の空気が、少しだけ引き締まった。
一回戦、二回戦に勝った。
だからといって、浮かれている暇はない。
勝ち進めば、当然相手も強くなる。
東鶴間高校が目指しているのは、城南ヶ丘学園高校と桜桜花高校に勝つこと。
そのためには、目の前の三回戦も突破しなければならない。
咲は続けた。
「二試合してきた」
その言葉に、部員たちは黙って耳を傾ける。
「相手もうちのデータを調べてくるだろう」
咲の視線が、雪夜へ向いた。
「そうなると、雪夜の肩を狙ってくる可能性がある」
部員たちの視線が、高橋雪夜に集まった。
雪夜は静かに受け止めていた。
分かっている。
自分の肩は弱い。
捕手として、そこは大きな弱点だった。
二盗。
三盗。
強いチームほど、そこを見逃さない。
これまでの二試合では大きな問題にならなかった。
だが、三回戦以降は違うかもしれない。
雪夜は拳を握った。
怖くないわけではない。
それでも、逃げるつもりはなかった。
咲は、雪夜だけでなく全員に向けて言う。
「だが、三盗されて、点を取られても、取り返せばいいことだ」
その言葉に、部員たちは顔を上げた。
咲ははっきりと言った。
「私はそう思っている」
雪夜は少しだけ目を見開いた。
肩が弱いこと。
盗塁を狙われること。
それは雪夜一人の問題のように思えてしまう。
だが、咲は違うと言ってくれているようだった。
点を取られたなら、取り返せばいい。
雪夜の肩が狙われたなら、投手が牽制し、内野手が守り、打線が返す。
チームで戦えばいい。
部員たちも、それを理解していた。
高柳龍二郎は黙って頷く。
新井元気は雪夜を見て、少しだけ笑った。
六条遊人も、守備位置で自分にできることを考えているようだった。
竹田栄司は、三盗封じの練習を思い出していた。
雪夜の弱点を、雪夜一人に背負わせない。
東鶴間高校は、そういうチームになっていた。
咲はホワイトボードの前に立った。
「では、三回戦のスタメンを発表する」
部員たちの視線が集まる。
咲は、順番に名前を読み上げていった。
「一番、セカンド、高柳龍二郎」
龍二郎は静かに頷いた。
「二番、キャッチャー、高橋雪夜」
雪夜は背筋を伸ばす。
三回戦も、正捕手として出場する。
肩を狙われる可能性がある。
それでも、マスクを被る。
「三番、センター、新井元気」
「はいでやんす」
元気はいつものように返事をした。
だが、その声には気合いがあった。
「四番、ライト、天宮真十郎」
真十郎は頷いた。
エースでありながら、今回も野手として出場する。
まだマウンドには上がらない。
強豪校との戦いへ向けて、温存される形だった。
「五番、ファースト、浮田総二」
「はい」
浮田は落ち着いて返事をした。
「六番、サード、竹田栄司」
「はいっ」
竹田は力強く返事をする。
雪夜の肩を狙われた時、三塁手としての役割は大きい。
竹田も、それを分かっていた。
「七番、ピッチャー、夏目海」
名前を呼ばれた海は、表情を引き締めた。
三回戦の先発。
前日に言われていたとはいえ、改めて発表されると、胸の奥に緊張が走る。
「八番、レフト、早田士郎」
「はいっ」
早田は返事をした。
「九番、ショート、六条遊人」
遊人は静かに頷いた。
咲は全員を見渡した。
「以上が、三回戦のスタメンとなる」
そして、海を見る。
「海、三回戦の先発、任せたぞ」
海はしっかりと前を向いた。
「はいっ!」
その返事には、緊張と覚悟が混じっていた。
咲は続ける。
「なお、白石広志は休ませる。二回戦で先発したことが理由だ」
広志は静かに頷いた。
「はい」
二回戦を投げ切った疲労は、完全には抜けていない。
ここで無理をさせれば、この先の戦いに響く。
咲はさらに伯方歩夢を見る。
「それと……歩夢」
「はい」
「海はスタミナがあるが、何かあった時に備えてくれ」
歩夢は真剣な表情で返事をした。
「はい」
一回戦で投げた歩夢も、完全に休んでいるわけではない。
チーム事情を考えれば、いつ出番が来てもおかしくない。
東鶴間高校には余裕がない。
だからこそ、全員が準備しておく必要があった。
咲は最後に言った。
「三回戦は、今まで以上に厳しい試合になるかもしれない。だが、いつも通りやろう。自分たちが練習してきたことを信じてくれ」
部員たちは声をそろえた。
「はいっ!」
こうして、三回戦のスターティングメンバーは決まった。
一番、セカンド、高柳龍二郎。
二番、キャッチャー、高橋雪夜。
三番、センター、新井元気。
四番、ライト、天宮真十郎。
五番、ファースト、浮田総二。
六番、サード、竹田栄司。
七番、ピッチャー、夏目海。
八番、レフト、早田士郎。
九番、ショート、六条遊人。
白石広志は休養。
伯方歩夢は、もしもの時に備える。
天宮真十郎は、まだ投げない。
県大会は、少しずつ厳しさを増していく。
雪夜の肩を狙われる可能性もある。
それでも、東鶴間高校は立ち止まらない。
部員たちは、それぞれの役割を胸に、練習へ戻っていった。




