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312/320

第312話 二回戦、一回表

 二回戦、一回表。


 相手高校の攻撃となり、マウンドに立つ白石広志の投球が始まろうとしていた。


 一回戦を七回コールドで勝った東鶴間高校。


 だが、二回戦はまた別の試合である。


 今日の先発は伯方歩夢ではない。


 白石広志。


 右のサイドハンド。


 球速は速くない。


 だが、制球力と変化球を武器にする投手だった。


 相手高校の一番打者が右打席に入る。


 捕手の高橋雪夜は、ゆっくりとサインを出した。


 白石はそのサインに頷く。


 そして、初球を投げた。


 内角低めへのストレート。


 打者はバットを動かさない。


「ストライク!」


 球審の声が響く。


 まずは見逃しストライク。


 相手打者は、わずかに目を細めた。


(ストレートは速くない……これなら打てるか)


 表示された球速は、125キロ。


 高校野球の投手として見れば、速いとは言えない。


 二年生の中でも、遅い方かもしれない。


 打者がそう思うのも無理はなかった。


 だが、白石広志は球速だけの投手ではない。


 変則のサイドハンド。


 そして、狙ったところへ投げ込める制球力。


 それが白石の武器だった。


 雪夜は二球目のサインを出す。


 白石は頷いた。


 二球目。


 またも、内角低め。


 球はミットへ吸い込まれるように入った。


 打者はボールだと思い、見逃す。


 しかし、球審の右手が上がった。


「ストライク!」


 ツーストライク。


 打者は思わず表情を変えた。


(同じコースに投げられるコントロールがあるのかよ)


 速くはない。


 だが、同じところへ続けて投げ込まれると、打者は簡単には踏み込めなくなる。


 内角低めを意識させられた。


 それだけで、打席の景色は変わる。


 雪夜は三球目のサインを出した。


 白石は、ほんの少しだけ間を置いてから頷いた。


 三球目。


 外角低めへ向かっていく変化球。


 打者の目には、一瞬カーブのように見えた。


(カーブか……しかし遅い。もらった)


 打者はそう判断し、スイングをした。


 だが、その軌道はカーブのものではなかった。


 曲がり方が違う。


 沈み方も違う。


 タイミングも、打点も、わずかにずれる。


 バットには当たった。


 しかし、芯ではない。


 力のない打球が、二塁方向へ転がる。


 セカンドの高柳龍二郎が軽やかに前へ出た。


 捕球。


 一塁へ送球。


 アウト。


 一番打者はセカンドゴロに倒れた。


 一塁へ走りながら、相手打者は眉をひそめていた。


(……カーブじゃないのか?)


 今の球は、カーブに見えた。


 だが、カーブではなかった。


 白石が投げた変化球。


 それは、かつて高橋雪夜から教わったものだった。


 途中までカーブに見える。


 しかし、最後の変化はカーブとは違う。


 打者に誤認させるための変化球。


 球速で押し切れない白石にとって、その球は大きな武器となっていた。


 ワンアウト。


 続く二番打者が打席に入る。


 雪夜は白石の球を受けながら、冷静に配球を組み立てていた。


 白石のストレートは速くない。


 だから、速球勝負はしない。


 内角を見せる。


 外角へ逃がす。


 カーブに見える変化球を混ぜる。


 サイドハンドの角度を生かし、打者の目線をずらす。


 二番打者にも、白石は丁寧に投げた。


 初球は外角へのストレート。


 二球目は内角低め。


 三球目に変化球を見せ、最後は低めの球を打たせる。


 打球はサードへ。


 竹田栄司が前へ出る。


 しっかりと捕球し、一塁へ送球。


 アウト。


 ツーアウト。


 竹田は小さく息を吐いた。


 守備への不安は、まだ完全には消えていない。


 それでも、こうして一つずつアウトを取ることで、自信は積み重なっていく。


 三番打者が打席に入る。


 相手打線の中では、力のある打者だった。


 雪夜は白石へサインを出す。


 無理に三振を狙う必要はない。


 白石の投球は、打たせて取ることに向いている。


 初球は外角低め。


 ボール。


 二球目は内角低めのストレート。


 ストライク。


 三球目は、内角低めにシンカー。


 打者はタイミングを外され、ファウル。


 ツーストライク。


 雪夜は最後に、外角低めへ落ちる変化球を要求した。


 白石は頷く。


 そして、投げた。


 打者は食らいつくようにバットを出す。


 だが、打球は詰まった。


 ショート方向へのゴロ。


 六条遊人が正面に入り、落ち着いて捕球する。


 無駄のない動きで一塁へ送球。


 アウト。


 スリーアウト。


 一回表、白石広志は相手打線を三者凡退に抑えた。


 ベンチへ戻る白石に、雪夜は声をかける。


「いい立ち上がりだったよ、広志」


 白石は少しだけ息を吐いた。


「雪夜さんのリードのおかげです」


「広志がちゃんと投げてくれたからだよ」


 雪夜はそう言って、軽く笑った。


 球速は速くない。


 だが、制球力がある。


 変則のサイドハンドがある。


 そして、打者の目を欺く変化球がある。


 白石広志は、自分の武器で初回を抑えた。


 一回表。


 東鶴間高校は無失点。


 そして、一回裏。


 東鶴間高校の攻撃が始まろうとしていた。

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