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311/319

第311話 二回戦、試合前

 二回戦当日。


 東鶴間高校野球部の面々は、球場まで来ていた。


 一回戦を七回コールドで勝利したことで、初戦の緊張は少し薄れていた。


 だが、県大会はまだ続いている。


 負ければ終わり。


 その事実は変わらない。


 ベンチに入った部員たちは、監督の九条咲の前に集まった。


 咲は部員たちを見渡し、静かに口を開く。


「みんな、今日は二回戦となる」


 部員たちは黙って聞いていた。


「一回戦とは違って、緊張はあまりしないと思う」


 たしかに、一回戦の時ほど張り詰めた空気ではなかった。


 初戦を勝った。


 七回コールドで勝てた。


 その事実は、部員たちに少しだけ自信を与えていた。


 しかし、咲は表情を崩さない。


「だが、油断していいという意味ではない」


 その言葉に、部員たちは表情を引き締めた。


 咲は白石広志を見る。


「白石」


「はい」


「今日の先発は任せる」


 白石広志は、まっすぐ咲を見て返事をした。


「はい、頑張ります」


 白石の声は落ち着いていた。


 だが、まったく緊張していないわけではない。


 一回戦では登板しなかった。


 つまり、白石にとっては今日が県大会初登板であり、初戦のマウンドのようなものだった。


 咲は続けて、夏目海を見る。


「それと……海」


「はい」


「白石に何かあったら、中継ぎで投げてもらうことになる。いつでも投げられる気持ちでいてくれ」


 海はしっかりと頷いた。


「はい。いつでも投げられるように、集中します」


 海も控えではある。


 だが、ただ座っているわけではない。


 いつでもマウンドへ上がれる準備をしておく。


 それが、この試合での海の役割だった。


 咲はもう一度、全員を見渡す。


「二回戦の相手も、一回戦を勝っている」


 その言葉で、ベンチの空気が少し引き締まる。


 ここにいるのは、勝ち上がってきたチーム同士だ。


 一回戦と同じようにうまくいくとは限らない。


「みんな、練習の成果を出せるようにしてくれ」


 部員たちは声をそろえた。


「はいっ!」


 そして、試合開始の時間が近づいていく。


 東鶴間高校の選手たちは守備位置へ向かった。


 マウンドには、白石広志が立つ。


 右のサイドスロー。


 複数のポジションを守れる万能選手であり、副キャプテン。


 だが、今この瞬間は、東鶴間高校の先発投手だった。


 捕手の高橋雪夜は、マスクを被る前にマウンドへ向かった。


「広志」


「はい、雪夜さん」


 雪夜は白石の表情を見る。


 落ち着いているように見える。


 けれど、いつもより少しだけ体に力が入っているようにも見えた。


 雪夜は穏やかに言った。


「君にとっては初戦のマウンドになるけど……気楽に投げよう」


 白石は一瞬だけ目を細めた。


 雪夜は、やはり気づいていた。


 自分が緊張していることを。


 それを責めるでもなく、無理に励ますでもなく、ただ気楽に投げようと言ってくれた。


 白石は小さく息を吐いた。


「はい。雪夜さんのリードに任せます」


 雪夜は頷いた。


「うん。広志が投げやすいように、僕も考えるよ」


 白石はもう一度、マウンドの感触を確かめるように足元を見る。


 緊張はある。


 自分にとって、これは県大会最初のマウンドのようなものだからだ。


 だが、雪夜の言葉で、その緊張は少しほぐれていた。


 いつも通りでいい。


 自分の球を投げる。


 白石は、そう思うことができた。


 雪夜はホームへ戻る。


 白石はロージンバッグに手を伸ばし、軽く指先につけた。


 ベンチでは、九条咲が静かに見守っている。


 夏目海は、いつでも投げられるように集中していた。


 伯方歩夢も、控えとして試合を見つめている。


 高柳龍二郎、新井元気、天宮真十郎、浮田総二、竹田栄司、早田士郎、六条遊人。


 それぞれが守備位置につき、白石の初球を待っていた。


 二回戦。


 東鶴間高校にとって、最後の夏の二つ目の試合。


 そのマウンドに立つ白石広志は、大きく息を吸った。


 そして、二回戦が始まった。

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