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第310話 一回戦から二回戦へ

 県大会一回戦を、東鶴間高校は七回コールドで勝利した。


 0対7。


 伯方歩夢が七回を無失点で投げ切り、打線もつながった。


 初戦としては、これ以上ない結果だった。


 だが、県大会はまだ始まったばかりである。


 翌日。


 東鶴間高校野球部の面々は、部室に集まっていた。


 監督の九条咲が、部員たちの前に立つ。


「みんな、まずは一回戦を勝利した……よくやった」


 その言葉に、部員たちは少しだけ表情を緩めた。


 初戦の勝利。


 しかも七回コールド。


 嬉しくないはずがなかった。


 伯方歩夢は少し照れたように視線を落とし、白石広志や夏目海も穏やかな表情を浮かべていた。


 だが、咲はすぐに表情を引き締める。


「初戦ということもあってか、緊張する者もいたかもしれない」


 部員たちは静かに聞いていた。


「それでも、七回コールドで勝てたのは、この先の戦いを考えたら、大きいものだと思う」


 それは事実だった。


 七回で試合を終えたことで、余計な消耗を避けることができた。


 天宮真十郎は投げていない。


 白石広志も夏目海も温存できた。


 少人数の東鶴間高校にとって、それは大きな意味を持つ。


 だが、勝ったからといって浮かれている暇はなかった。


 咲は部員たちを見渡し、静かに言った。


「我々の目標は、城南ヶ丘と桜桜花に勝つことだ」


 その言葉に、部室の空気が少しだけ重くなる。


 城南ヶ丘学園高校。


 桜桜花高校。


 どちらも、東鶴間高校にとって大きな壁だった。


「だが、まずは目の前の試合に勝つこと」


 咲は強く言った。


「そのことを忘れないでほしい」


 部員たちは頷いた。


 城南ヶ丘と桜桜花を見据えることは大切だ。


 だが、そこへたどり着く前に負けてしまえば、すべて終わる。


 三年生にとっては、負けた瞬間に最後の夏が終わる。


 一回戦で勝ったことに、浮かれる暇はなかった。


 咲はホワイトボードの前に立つ。


「では……二回戦のスタメンのことだが……ここで発表しようと思う」


 部員たちの視線が、咲へ集まる。


 そして、スターティングメンバーの発表が始まった。


「一番、セカンド、高柳龍二郎」


 龍二郎は静かに頷いた。


 一回戦でも先頭打者として出塁し、得点につなげた。


 二回戦でも、試合の流れを作る役目を担う。


「二番、キャッチャー、高橋雪夜」


 雪夜は背筋を伸ばす。


 一回戦に続き、正捕手として出場する。


 捕手として投手を支え、二番打者としてつなぐ。


 その役割は大きかった。


「三番、センター、新井元気」


「はいでやんす」


 元気は返事をした。


 明るさだけではない。


 ミート力と守備力で、東鶴間を支える三番打者だった。


「四番、ライト、天宮真十郎」


 真十郎は静かに頷く。


 エースでありながら、今回も野手として出場する。


 強豪校と当たる前に投げさせない。


 咲の方針は、二回戦でも変わらなかった。


「五番、ファースト、浮田総二」


「はい」


 浮田は落ち着いた声で返事をする。


 中軸の後ろで、打線を切らさない役目がある。


「六番、サード、竹田栄司」


「はいっ」


 竹田は力強く返事をした。


 一回戦では、最後のアウトを取る送球もあった。


 守備への不安は完全に消えたわけではない。


 それでも、少しずつ前へ進んでいる。


「七番、ピッチャー、白石広志」


 その名前が呼ばれた瞬間、白石広志は顔を上げた。


 二回戦の先発。


 自分に任された。


 その意味を、広志はすぐに理解した。


「八番、レフト、早田士郎」


「はいっ」


 早田も返事をした。


 一回戦ではセーフティバントを仕掛けた。


 アウトにはなったが、相手守備を慌てさせることはできた。


 二回戦でも、自分の足をどう生かすかが問われる。


「九番、ショート、六条遊人」


 遊人は落ち着いて頷いた。


 守備の要として、二回戦でもショートに入る。


 打撃でも、少しずつ前に飛ばせるようになってきていた。


 咲は全員を見渡す。


「以上が、二回戦のスタメンとなる」


 そして、伯方歩夢を見る。


「歩夢は一回戦で投げたから、二回戦では休んでもらう」


 歩夢は素直に頷いた。


「はい」


 一回戦を投げ切った疲労は、まだ完全には抜けていない。


 無理をすれば、今後に響く可能性がある。


 だからこそ、二回戦は休ませる。


 咲は今度、白石広志へ視線を向けた。


「そして白石」


「はい」


「二回戦をお前に託す。先発で投げてもらうぞ」


 広志は少しだけ息を吸った。


 変則右腕。


 複数のポジションを守れる万能選手。


 副キャプテン。


 だが、この試合では投手としてチームを背負う。


 広志はまっすぐ咲を見て答えた。


「はい、頑張ります」


 咲は頷く。


「頼んだぞ」


「はい」


 こうして、二回戦のスターティングメンバーは決まった。


 一番、セカンド、高柳龍二郎。


 二番、キャッチャー、高橋雪夜。


 三番、センター、新井元気。


 四番、ライト、天宮真十郎。


 五番、ファースト、浮田総二。


 六番、サード、竹田栄司。


 七番、ピッチャー、白石広志。


 八番、レフト、早田士郎。


 九番、ショート、六条遊人。


 そして、伯方歩夢と夏目海は控えに回る。


 エースの天宮真十郎は、まだ温存する。


 県大会は長い。


 勝ち進むためには、一人の投手だけに頼るわけにはいかない。


 東鶴間高校は、少ない人数で戦わなければならない。


 だからこそ、一人一人の役割が重かった。


 スタメン発表が終わると、部員たちは練習に戻った。


 一回戦に勝った喜びはある。


 けれど、もう次の戦いが待っている。


 二回戦。


 白石広志の先発。


 東鶴間高校野球部の最後の夏は、まだ始まったばかりだった。

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