第309話 一回戦、終盤
そして、七回表。
ここで無得点に抑えれば、七回コールド勝ちとなる。
捕手の雪夜は、マウンドへ向かった。
歩夢は帽子のつばを少し上げ、呼吸を整えていた。
ここまで無失点。
だが、疲労は明らかだった。
雪夜は歩夢の顔を見て尋ねる。
「歩夢……体力はどうかな」
歩夢は少しだけ息を整え、答えた。
「あと、一回なら……なんとかなりそうです」
雪夜は歩夢の目を見る。
無理をしていないか。
投げたい気持ちだけで答えていないか。
それを確かめるように。
「分かった」
雪夜は頷いた。
「だけど、無理だと思ったら……休んでもらうよ」
「はい」
歩夢は小さく頷いた。
こうして、七回表の守備が始まった。
先頭打者。
歩夢はストレートで押したあと、高速スライダーで打ち取った。
ショートゴロ。
六条遊人が落ち着いて処理し、ワンアウト。
次の打者には、スローカーブを使った。
相手打者はタイミングを外され、力のないフライを打ち上げる。
セカンドの高柳龍二郎が捕球。
ツーアウト。
あと一人。
ベンチの空気が、少しだけ張り詰める。
だが、雪夜は焦らなかった。
ここで浮つけば、相手に流れを渡してしまう。
雪夜はミットを構えた。
歩夢も大きく息を吸う。
最後の打者。
初球は外角のストレート。
ストライク。
二球目はスローカーブ。
打者は見送る。
ボール。
三球目。
雪夜は高速スライダーを要求した。
歩夢は頷く。
疲労はある。
それでも、腕を振った。
打者はバットを出す。
打球は詰まり、三塁方向へ転がった。
竹田栄司が前へ出る。
しっかりと捕球し、一塁へ送球。
浮田総二が捕った。
アウト。
試合終了。
東鶴間高校、一回戦を七回コールドで勝利。
0対7。
伯方歩夢は、七回を無失点で投げ切った。
ベンチから歓声が上がる。
だが、マウンド上の歩夢は大きく喜ぶ余裕がなかった。
体力は、ほとんど底をついていた。
立っているのもやっとだった。
雪夜はマスクを外し、歩夢のもとへ向かった。
「歩夢」
歩夢は顔を上げる。
雪夜は穏やかに言った。
「よくやったよ……お疲れ様」
その言葉に、歩夢は少しだけ笑った。
「はい……」
そして、静かに続ける。
「これからの戦いを考えたら、良かったです」
白石広志と夏目海を温存できた。
エースの天宮真十郎も投げずに済んだ。
少人数の東鶴間高校にとって、それは大きな意味を持つ勝利だった。
もちろん、歩夢の疲労は大きい。
次にすぐ投げられる状態ではないかもしれない。
それでも、一回戦を七回コールドで勝てたことは、チームにとって確かな前進だった。
雪夜は歩夢の肩にそっと手を置いた。
「ありがとう、歩夢」
「はい」
歩夢は小さく頷いた。
こうして、東鶴間高校野球部は一回戦を突破した。
最後の県大会。
その最初の試合を、東鶴間高校は勝利で飾った。




