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303/306

第303話 一回戦の抱負

 咲の話は続いていた。


「今回は、打撃力で決めてみた」


 部員たちは黙って聞く。


「天宮は打撃力があり、歩夢はミート能力が高い。一回戦はこのメンバーでいく」


 野球部の面々は、声をそろえて返事をした。


「はいっ!」


 咲は白石広志と夏目海を見る。


「白石広志、夏目海」


「はい」


「はいっ」


「二人は控えで待機しておいてほしい。歩夢の体力が危なくなったら、その時には投げてもらうぞ」


 広志と海は、すぐに返事をした。


「はいっ!」


 控えだから出番がないわけではない。


 少人数の東鶴間高校野球部にとって、控えの二人も重要な戦力だった。


 咲はさらに言う。


「県大会は、長丁場になる」


 その言葉には、監督としての現実的な判断が込められていた。


「天宮には、強豪校と当たる前には投げさせないつもりだ」


 真十郎は静かに聞いていた。


 エースとして投げたい気持ちはある。


 だが、城南ヶ丘や桜桜花と戦うためには、温存も必要だった。


「みんな、厳しい戦いになると思うが……頑張ってくれ」


 部員たちは、強く返事をした。


「はいっ!」


 こうして、一回戦のスターティングメンバーが決まった。


 そして、咲は雪夜を見る。


 キャプテンとして、話す時間だった。


 雪夜は立ち上がり、部員たちの前に立った。


 少しだけ息を吸う。


 全員の顔を見る。


 三年生になった仲間たち。


 二年生になった後輩たち。


 そして、マネージャーたち。


 この十四人で、最後の県大会を戦う。


 雪夜は静かに口を開いた。


「みんな……今回の県大会が、僕たち三年生の最後の大会となる」


 部室の空気が、少しだけ重くなる。


 誰もが分かっていることだった。


 だが、雪夜の口から言われると、その現実が改めて胸に刺さった。


「城南ヶ丘と桜桜花に勝てるかは分からない」


 雪夜は正直に言った。


 簡単に勝てる相手ではない。


 去年、城南ヶ丘には七回コールドで敗れた。


 桜桜花は、今も県内屈指の強豪校だ。


「でも、後悔しないように戦ってほしい」


 雪夜は拳を握った。


「僕たちは、ここまで練習してきた。悩んだ選手もいたし、不安が消えたわけじゃない。それでも、みんなで前に進んできた」


 部員たちは、雪夜を見ていた。


「この十四人で戦う。誰か一人が欠けても苦しい。だからこそ、一人一人が自分の役割を果たそう」


 雪夜の声は、少しずつ力を帯びていく。


「勝つために。進藤キャプテンたちの願いを叶えるために。そして、僕たち自身が後悔しないために」


 雪夜は、まっすぐに言った。


「一回戦から、全力で戦おう」


 部員たちは一斉に声を上げた。


「おうっ!」


 その声が、部室に響いた。


 こうして、東鶴間高校野球部の一回戦のスタメンは決まった。


 一番、セカンド、高柳龍二郎。


 二番、キャッチャー、高橋雪夜。


 三番、センター、新井元気。


 四番、ライト、天宮真十郎。


 五番、ファースト、浮田総二。


 六番、サード、竹田栄司。


 七番、ピッチャー、伯方歩夢。


 八番、レフト、早田士郎。


 九番、ショート、六条遊人。


 控えには、白石広志と夏目海。


 マネージャーには、夏目真衣、小山唯、高柳冬美。


 十四人で挑む、最後の県大会。


 高橋雪夜たち三年生の、最後の高校野球が始まろうとしていた。

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