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301/307

第301話 練習の日々

 県大会が迫っていた。


 東鶴間高校野球部の面々は、今日もグラウンドで練習を続けている。


 打倒、城南ヶ丘学園高校。


 打倒、桜桜花高校。


 その想いは、部員たちの中で日に日に強くなっていた。


 去年、城南ヶ丘には準々決勝で敗れた。


 七回コールド負け。


 あの悔しさは、今も消えていない。


 桜桜花高校にも、勝たなければならない。


 進藤竜也、中山太郎、田中三郎が残していった願い。


 来年は、城南ヶ丘と桜桜花に勝ってほしい。


 その言葉を叶えるために、雪夜たちは練習を続けてきた。


 県大会前には、練習試合も二試合ほど行った。


 今の東鶴間高校がどこまで通じるのか。


 この戦力で、どう戦えばいいのか。


 その確認のための試合だった。


 結果だけを見れば、東鶴間高校はなんとか勝利した。


 高柳龍二郎の打撃。


 天宮真十郎の投球。


 高橋雪夜のリード。


 新井元気や六条遊人の守備。


 一年生から二年生になった選手たちの成長。


 それぞれが力を発揮し、勝ち切ることはできた。


 だが、問題がなかったわけではない。


 選手は十一人しかいない。


 控えは二人。


 投手は、天宮真十郎、白石広志、夏目海、伯方歩夢の四人。


 投手の人数だけを見れば最低限いるように見えるが、県大会を勝ち進むには、決して余裕があるとは言えなかった。


 そして、もう一つ。


 正捕手となった高橋雪夜の肩の弱さ。


 二盗だけではない。


 三盗を仕掛けられる危険性がある。


 そのために、雪夜は竹田栄司や白石広志と三盗封じの練習を繰り返してきた。


 竹田の守備も少しずつ良くなっている。


 雪夜も、送球までの速さを少しでも上げようとしている。


 それでも、実戦でどこまで通用するのかは分からなかった。


 練習試合では、三盗を仕掛けてきた選手はいなかった。


 だから、練習の成果を試すことはできなかった。


 それは幸運だったのか。


 それとも、不安を残したまま県大会に入ることになったのか。


 雪夜には、まだ分からなかった。


 それでも、時は待ってくれない。


 県大会は近づいてくる。


 練習できる時間は、少しずつ減っていく。


 どれだけ不安があっても。


 どれだけ課題が残っていても。


 試合の日は、必ず来る。


 そして、県大会直前。


 東鶴間高校野球部の面々は、部室に集まっていた。


 空気は、いつもより少し重かった。


 雑談する者は少ない。


 誰もが、これから発表されるものを待っていた。


 スターティングメンバー。


 県大会一回戦の先発オーダー。


 それを知っているのは、監督の九条咲だけだった。


 高橋雪夜は、静かに椅子に座っていた。


 キャプテンとして、表情を崩さないようにしている。


 だが、胸の中には緊張があった。


 自分は正捕手として出るのか。


 天宮真十郎が初戦から投げるのか。


 外野には誰が入るのか。


 レフトは白石広志か、夏目海か、伯方歩夢か。


 竹田栄司は三塁なのか。


 それとも、守備を重視して別の形になるのか。


 考えようと思えば、いくらでも考えられた。


 だが、決めるのは監督である九条咲だった。


 高柳龍二郎は腕を組み、黙っていた。


 天宮真十郎は、膝の上で拳を握っている。


 六条遊人は、落ち着いているように見えて、少しだけ背筋が伸びていた。


 新井元気も、いつものような軽口を言わなかった。


 浮田総二、白石広志、竹田栄司、夏目海、伯方歩夢、早田士郎も、それぞれ発表を待っていた。


 夏目真衣、小山唯、高柳冬美の三人も、マネージャーとして静かに見守っている。


 やがて、部室の扉が開いた。


 九条咲が入ってくる。


 部員たちは、一斉に姿勢を正した。


 咲は部員たちを見渡した。


 その表情は、いつもより少し引き締まっていた。


「みんな、集まっているね」


 誰も返事をしなかった。


 だが、全員の視線が咲へ向いていた。


 咲はホワイトボードの前に立つ。


 そして、ゆっくりと口を開いた。


「今日は、県大会一回戦のスターティングメンバーを発表する」


 その一言で、部室の空気がさらに張り詰めた。


 いよいよ始まる。


 最後の県大会。


 雪夜たち三年生にとって、最後の夏。


 進藤たちの願いを背負った大会。


 城南ヶ丘と桜桜花に勝つための戦い。


 その最初の一歩となるオーダーが、今から発表される。


 雪夜は小さく息を吸った。


 誰が選ばれても、やることは変わらない。


 勝つために戦う。


 仲間を信じる。


 そして、自分にできることをする。


 咲が、ホワイトボードにペンを向ける。


 東鶴間高校野球部の県大会一回戦。


 そのスターティングメンバー発表が、始まろうとしていた。

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