第291話 小山唯の打撃
こうして、六条遊人は小山唯に話を聞くことにした。
雪夜は止めようとした。
だが、遊人はすでに唯のもとへ向かっていた。
唯はマネージャーの仕事をしていたが、近づいてきた遊人に気づくと、少し不思議そうに顔を上げた。
「あの、小山さん」
「どうしたの、六条君」
唯はいつものように穏やかに聞き返す。
遊人は少し緊張しながらも、真剣な表情で言った。
「打撃について、教えてほしいんだ」
「えっ……私?」
唯は驚いたように自分を指差した。
「うん」
遊人は頷く。
「小山さんは中学時代、打てるショートって聞いたから……」
その言葉に、唯は少し照れくさそうに笑った。
「確かに……打つのは好きだったけど……」
「だから、教えてほしいんだ」
遊人はまっすぐ唯を見る。
「僕でも、打てるショートになりたいんだ」
その言葉に、唯は少しだけ黙った。
六条遊人は、守備の上手い遊撃手だ。
肩も強い。
守備範囲も広い。
けれど、打撃に悩んでいることは、マネージャーである唯も知っていた。
それでも前に進もうとしている。
打てるショートになりたい。
その気持ちは、唯にも分かった。
「うーん……」
唯は少し考えたあと、頷いた。
「私でよかったら、いいよ」
遊人の表情が少し明るくなる。
「ありがとう、小山さん」
こうして、唯は遊人の打撃練習を見ることになった。
唯はバットを持つ。
「まずは……お手本を見せるね」
「お願いします」
遊人は少し後ろに下がった。
投手役の部員が、ストレートを投げる。
唯は打席に立ち、構えた。
今はマネージャー。
だが、中学時代は遊撃手だった。
そして、打つことが好きだった。
投手が投げたストレートを、唯はしっかり引きつけて振り抜いた。
打球は鋭く内野の間を抜けていく。
ヒット性の当たりだった。
二球目。
三球目。
唯は大きな長打を狙うわけではない。
だが、しっかりボールを見て、確実にバットに当てていく。
ストレートのみとはいえ、その多くがヒット性の当たりになっていた。
十球が終わった時、遊人は目を丸くしていた。
「すごい……十球中、五本もヒットになったよ」
唯は少し恥ずかしそうに笑った。
「まあ、ストレートだけだから、なんとかヒットにできたよ」
「それでもすごいよ」
遊人は素直に感心していた。
今の唯はマネージャーだ。
だが、バットを持てば、確かに元選手だったことが分かる。
遊人は尋ねた。
「打撃のコツって、あるのかな」
「そうだね……」
唯はバットを見ながら考える。
「私は力がないから、長打はないけど……とりあえず振り抜くってことかな」
「振り抜く……」
「うん。私の場合、球を引きつけて打つって感じかな」
唯は投手の方を見る。
「相手の球種を頭に入れて、何を投げるか……それを読むってことかな」
「読み合いってこと?」
「うん」
唯は頷いた。
「私はストレートを打つのが得意だったから、ストレート狙いが多かったかな」
それから少し苦笑する。
「相手が変化球中心の投手だったら、少し苦戦はしたよ」
「じゃあ、変化球が苦手なの?」
「苦手だけど……」
唯は少し考えながら言った。
「変化球しか投げないなら、変化球を狙って打っていたよ」
「そうなんだ……対策はできていたんだね」
「うん。あとは、どのコースに投げてくるか……そこを読むことをしていたかな」
遊人は少しだけ唸った。
「なんか……難しいことをしていたんだね」
「まあ、考えすぎても打てなくなるからね」
唯は軽く笑った。
「まずは打ってみよう」
「うん」
遊人はバットを持って、打席に立った。




