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288/323

第288話 三盗封じ、前半

 新入生が誰も入部してこなかった東鶴間高校野球部。


 それでも、練習は変わらず続いていた。


 城南ヶ丘学園高校に勝つために。


 桜桜花高校に勝つために。


 そして、最後の夏で後悔しないために。


 だが、新入部員がいないという現実は、チームに大きな意味を持っていた。


 それは、高橋雪夜が正捕手になるということだった。


 他に捕手経験があるのは、白石広志だけ。


 だが、広志は捕手ができる程度であり、本職ではない。


 チームの中心でマスクを被るのは、やはり雪夜になる。


 それ自体は、誰も不思議には思わなかった。


 雪夜の配球。


 リード。


 読み。


 捕球技術。


 捕手としての能力は、チームの誰もが認めていた。


 だが、ひとつ大きな問題があった。


 雪夜の肩が弱いことだった。


 盗塁を阻止できる可能性は低い。


 二盗だけではない。


 三盗を仕掛けられる危険性もある。


 強豪校なら、そこを見逃すはずがなかった。


 だから雪夜は、三盗封じの練習を始めることにした。


 相手に走られることは避けられない。


 ならば、少しでもアウトにできる可能性を上げるしかない。


 練習相手になったのは、三塁手の竹田栄司だった。


 試しに、二塁ランナーに早田士郎を置く。


 投手は天宮真十郎。


 捕手は高橋雪夜。


 三塁手は竹田栄司。


 実戦に近い形で、三盗封じの練習が始まった。


 早田が二塁でリードを取る。


 真十郎がマウンド上でセットポジションに入る。


 雪夜はミットを構えながら、早田の動きを視界の端で見ていた。


 真十郎が投球動作に入る。


 その瞬間、早田がスタートを切った。


 三塁へ向かって、一気に走る。


 雪夜は捕球すると同時に、すぐに立ち上がった。


 握り替え。


 送球。


 無駄はなかった。


 送球は完璧だった。


 投げるまでの速さも、今の雪夜ができる中では完璧だった。


 だが――。


 栄司の捕球が、わずかに乱れた。


 ボールを捕ってから、タッチへ移るまでに時間がかかる。


 早田が三塁へ滑り込む。


 判定はセーフだった。


 雪夜は小さく息を吐いた。


 栄司も、悔しそうにグラブを握った。


 その後も、三盗封じの練習は続いた。


 早田が走る。


 雪夜が投げる。


 栄司が捕って、タッチする。


 何度も繰り返した。


 だが、成功したのは十回中三回だった。


 雪夜は難しい顔で考え込む。


「うーん……僕の肩が弱いからなぁ……どうしたものか……」


 栄司は、すぐに頭を下げた。


「すいません、雪夜さん……俺の守備が上手くなくて」


 雪夜は首を横に振る。


「栄司のせいではないよ」


 そして、自分の右肩に少しだけ触れた。


「僕の肩が弱いから、栄司に負担をかけていることになっているから」


 だが、栄司は納得できなかった。


 今の練習で分かってしまった。


 雪夜の送球は悪くなかった。


 投げるまでの速さも、工夫されていた。


 それでもアウトにできないのは、自分の捕球とタッチが遅いからではないのか。


 そう思ってしまった。


 栄司は、少し迷ったあとで言った。


「雪夜さん」


「うん?」


「広志を三塁で試したほうがいいと思います」


 雪夜は目を細めた。


「……広志は守備が上手いけど、三塁は本職ではないだろう」


 そして、栄司を見る。


「栄司、どうしたんだ、急に?」


 栄司は答えず、白石広志の方を向いた。


「……広志、代わってくれ」


 広志は少しだけ表情を曇らせた。


 だが、すぐに頷く。


「……分かった」


 今度は、広志が三塁についた。


 果たして、竹田栄司の考えていることはなにか、それは本人しか知らないのであった。

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