第285話 入学式
三年生の進藤竜也、中山太郎、田中三郎が卒業してから、数日が経った。
それでも、東鶴間高校野球部のやることは変わらなかった。
城南ヶ丘学園高校に勝つ。
桜桜花高校に勝つ。
その目標を達成するために、今日もグラウンドで練習を続けていた。
走る。
投げる。
打つ。
守る。
声を出す。
同じことの繰り返しに見えるかもしれない。
だが、その一つ一つが、確かに夏へつながっている。
長いようで短い高校生活。
特に、今の二年生たちにとっては、残された時間が少しずつ減っていることを嫌でも意識する時期になっていた。
高橋雪夜。
高柳龍二郎。
天宮真十郎。
六条遊人。
新井元気。
夏目真衣。
小山唯。
彼らにとって、次の県大会が最後の夏になる。
そのことを思うと、一日一日を無駄にはできなかった。
悔いを残したくない。
進藤たちのように、最後に胸を張って卒業したい。
そのためには、今やるべきことをやるしかない。
春休みに入っても、野球部の毎日は練習漬けだった。
特別なことをしているわけではない。
けれど、誰も手を抜かなかった。
天宮はエースとして、より長いイニングを投げ抜くために身体を作っていた。
龍二郎は、全国レベルの投手を打つために、黙々とバットを振り続けていた。
元気は、三番打者として強い投手を打ち崩すために打撃練習を重ねていた。
遊人は、守備だけでなく打撃でも貢献するために粘り打ちを磨いていた。
雪夜はキャプテンとして、そして正捕手として、チーム全体を見ながら自分の練習も続けていた。
一年生たちも、それぞれの課題に向き合っていた。
浮田総二は、ミート力をさらに伸ばすために。
白石広志は、投手としても野手としてもチームを支えるために。
竹田栄司は、苦手な守備を克服するために。
夏目海は、伸びのある直球をさらに磨くために。
伯方歩夢は、新しく覚えようとしているシンカーを自分のものにするために。
早田士郎は、足を武器にするために。
高柳冬美も、マネージャーとしてチームを支えるために。
それぞれが、少しずつ前へ進んでいた。
やがて春休みが終わった。
そして、入学式の日が来た。
校舎には、新しい制服に身を包んだ新入生たちが集まっていた。
少し緊張した表情。
期待に満ちた顔。
不安そうに周囲を見回す者。
友人と楽しそうに話す者。
新しい季節が始まろうとしていた。
その日、雪夜たち二年生は三年生になった。
浮田総二、白石広志、竹田栄司、夏目海、伯方歩夢、早田士郎、高柳冬美たち一年生は、二年生になった。
もう、自分たちは下級生ではない。
雪夜たちは最上級生として、東鶴間高校野球部を引っ張っていく立場になった。
新一年生の入学式を見ながら、野球部の面々は同じことを考えていた。
この中に、野球部へ入部する者はいるのか。
それとも、いないのか。
選手は今、十一人。
マネージャーは三人。
決して余裕のある人数ではない。
新入部員が入れば、チームの形は変わる。
入らなければ、今いる十一人で戦うしかない。
どちらになるのかは、まだ誰にも分からなかった。
雪夜は新入生たちの姿を見ながら、静かに息を吐いた。
期待がないわけではない。
不安がないわけでもない。
けれど、どんな結果になっても、やることは変わらない。
今いる仲間たちと、強くなる。
それだけだった。
やがて、入学式は終わった。
新入生たちが校舎へ戻り、学校全体が少しずつ日常へ戻っていく。
その中で、東鶴間高校野球部の面々はグラウンドへ向かった。
そして、いつものように練習を始めた。
三年生となった雪夜たちは、練習をしながら、しみじみと思っていた。
自分たちは、三年生になったのだ。
進藤たちを見送る側だった自分たちが、今度は見送られる側へ近づいている。
次の県大会が、自分たちにとって最後の大会になる。
その現実が、少しずつ胸に重くのしかかっていた。
だが、立ち止まるわけにはいかない。
最後だからこそ、やるしかない。
城南ヶ丘学園高校に勝つ。
桜桜花高校に勝つ。
進藤たちの願いを叶える。
そのために、今日も練習をする。
雪夜はミットを握り直した。
天宮の球を受けるために。
仲間たちを支えるために。
キャプテンとして、このチームを導くために。
春の風が、グラウンドを吹き抜ける。
新しい一年が始まった。
けれど、東鶴間高校野球部の目標は変わらない。
県大会に向けて。
最後の夏に向けて。
野球部の面々は、ただ練習を続けていくのだった。




