第262話 六条遊人の悩み
高橋雪夜と天宮真十郎の仲も少しずつ深まり、東鶴間高校野球部の面々は今日も練習に励んでいた。
打倒、城南ヶ丘。
打倒、桜桜花。
その目標に向かって、それぞれが自分の課題と向き合っている。
そんな中、六条遊人は一人、悩みを抱えていた。
(……僕は、副キャプテンなのに……)
六条はバットを握りながら、静かに息を吐いた。
(二年生になっても、打てないなんて……)
守備には自信がある。
ショートとして、チームを守る力はあると思っている。
だが、打撃が足りない。
自分には打撃力がない。
それは、六条自身が一番よく分かっていた。
だから、桜桜花高校の市原圭一や、城南ヶ丘学園高校の六本遊希を見本にして、粘り打ちとカット打ちを練習していた。
簡単にはアウトにならない打者。
相手投手に球数を投げさせる打者。
嫌な打者。
そうなりたいと思っていた。
だが、思うように自分のものにできていなかった。
ファウルにしようとして空振りする。
粘ろうとして凡打になる。
見極めようとして、追い込まれる。
練習すればするほど、自分の未熟さを思い知らされた。
悩みに悩んだ六条は、高橋雪夜に相談することにした。
「……というわけなんだ」
六条は、雪夜に自分の悩みを話した。
雪夜は少し考える。
「うーん……六条は打撃が悩みか……」
「うん」
「なら、龍二郎に聞いてみたらどうかな」
雪夜の言葉に、六条はすぐに首を横に振った。
「いや、高柳はすごすぎて、真似はできないよ」
高柳龍二郎は、東鶴間高校の中でも別格の打者だった。
相手投手を見極め、狙い球を仕留める力。
打球の強さ。
左右どちらでも打てる技術。
六条から見れば、参考にする以前に次元が違いすぎた。
「じゃあ……元気か総二に聞いてみたらどうかな。僕より当てる能力はあるから」
新井元気も、浮田総二も、ミートする力は高い。
特に総二は、当てる能力に優れている。
雪夜の提案は自然だった。
だが、六条は首を横に振らなかった。
「僕は、雪夜に聞きたいの」
雪夜は少し驚いたように六条を見た。
「そうか……理由は?」
六条はまっすぐに雪夜を見る。
「雪夜は……六本の先輩なんだろう」
「遊希のことかい?」
「うん」
六条は頷いた。
「なら、あの粘り打ちを理解していると思ったんだ」
雪夜は少しだけ目を伏せる。
六本遊希。
中学時代の後輩。
城南ヶ丘学園高校で、東鶴間の前に立ちはだかった一年生。
セカンドでは苦しんだが、ショートに戻ってからは本来の守備を見せた。
そして、打席では粘り強い打撃をしていた。
「確かに……粘り打ちとカット打ちは、僕が教えたけど……」
雪夜がそう言うと、六条は一歩前に出る。
「なら、教えてほしいんだ」
その声には、真剣さがあった。
「来年の大会までに、自分のものにしたいんだ」
雪夜は六条の顔を見た。
副キャプテンとしての責任。
打てないショートのままではいられないという焦り。
それでも、前に進もうとする気持ち。
そのすべてが、六条の言葉から伝わってきた。
雪夜は静かに頷いた。
「そこまで言われたら……協力するよ」
六条の表情が少し明るくなる。
「ありがとう、雪夜」
こうして、雪夜は六条の練習を見ることになった。




