第256話 決着、東栄対春日野
九回表。
東栄高校の攻撃。
ワンアウト。
ランナー二塁。
打席には三番、佐藤秋一郎。
右打席へ入る秋一郎を見て、鈴木草助は息を整えた。
ここまで一点に抑えている。
だが、この場面で打たれれば、試合は決まってしまう。
敬遠。
その選択肢もあった。
全国大会決勝。
一点差。
相手は佐藤秋一郎。
勝つためだけなら、勝負を避けてもおかしくない場面だった。
だが、春日野学園の監督は勝負を選択した。
草助も逃げたくなかった。
(ここで逃げたら……俺は秋一郎に勝てない)
草助はボールを握り直す。
勝負。
草助の初球。
秋一郎は、また狙っていた。
振り抜いた打球は、今度は右中間へ飛んでいく。
外野手が追う。
だが、打球は深いところへ落ちた。
二塁ランナーが三塁を蹴る。
ホームへ向かう。
送球が返ってくる。
だが、間に合わない。
セーフ。
東栄高校、追加点。
2対0。
打った秋一郎は、三塁へ到達していた。
ワンアウト、ランナー三塁。
草助はマウンドで肩を上下させていた。
初回に本塁打。
九回に三塁打。
佐藤秋一郎一人に、試合を動かされていた。
続く四番打者。
草助はなんとか打ち取ろうとした。
だが、打球は外野へ上がる。
犠牲フライには十分な飛距離だった。
三塁ランナーの秋一郎がタッチアップする。
ホームイン。
3対0。
東栄高校が、決定的な三点目を奪った。
九回裏。
春日野学園高校、最後の攻撃。
スコアは3対0。
マウンドには、佐藤秋一郎。
秋一郎は最後まで崩れなかった。
一人目を打ち取る。
二人目も打ち取る。
ツーアウト。
全国大会優勝まで、あと一人。
そして打席には、三番。
鈴木草助。
左打席に入った草助は、バットを強く握っていた。
(俺は……練習してきたのに……)
中学の頃から、草助は自分の実力に誇りを持っていた。
肩の弱い捕手を認められなかった。
雪夜を見下していた。
自分は上に行けると思っていた。
そして実際に、春日野学園高校で全国大会決勝まで来た。
世代ナンバー3と呼ばれる投手になった。
それでも――。
目の前にいる佐藤秋一郎は、あまりにも遠かった。
秋一郎の初球。
内角のストレート。
草助は振った。
だが、バットは空を切る。
「ストライク!」
(練習して……)
草助は奥歯を噛みしめる。
(世代ナンバー3になったのに……)
秋一郎は淡々と投げる。
二球目。
草助は追い込まれた。
ツーストライク。
あと一球。
草助の胸に、悔しさが広がっていく。
(俺は……秋一郎の足もとにも、及ばないのかよ……)
秋一郎が三球目を投げる。
高めのストレート。
草助は必死にバットを出した。
当てた。
だが、打球は高く上がる。
マウンド方向への小さな飛球。
ピッチャーフライ。
秋一郎が一歩前に出る。
グラブを構える。
白球が、秋一郎のグラブに収まった。
試合終了。
東栄高校、全国大会優勝。
佐藤秋一郎、完封勝利。
全国大会決勝は、3対0で東栄高校が制した。
世代ナンバー1。
本物の天才。
その名にふさわしい投球と打撃で、佐藤秋一郎は全国の頂点に立った。
鈴木草助は、マウンドではなく打席に立ったまま、しばらく動けなかった。
全国大会決勝まで来た。
世代ナンバー3と呼ばれるところまで来た。
だが、最後に突きつけられたのは、佐藤秋一郎との絶対的な差だった。
部室のテレビを見ていた東鶴間高校野球部の面々も、言葉を失っていた。
そして高橋雪夜は、画面に映る秋一郎と草助を静かに見つめていた。
秋一郎が勝った。
草助は敗れた。
全国の頂点を決める試合は、佐藤秋一郎の完封勝利で幕を閉じた。




