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第25話 東栄、三回表

 三回表。


 また、同じ光景だった。


 一番・泉壮一が二塁打。

 二番・沢口誠士郎が送りバント。


 点差がどれだけ開いても、

 沢口誠士郎の野球は、変わらない。


 ――ワンアウト三塁。


 三番、佐藤秋一郎。


 佐々木冬次郎が投げたのは、外角のフォーク。


 佐藤は、力まず流した。


 打球は、レフト前へ。


 9点目。


 そこから先は、

 もう止まらなかった。


 四番・近藤烈也。

 五番・鈴本次郎。

 六番・島田啓示。

 七番・金森公士郎。


 連打、連打、連打。


 スコアは――

 13対2。


 11点差。


 誰もが、

 「ここまでか」と思った、その時だった。


「……タイム」


 東鶴間監督の九条咲が、ゆっくりと前に出る。


 残っている投手は、田中三郎。

 捕手は、中山太郎。


 だが――


「ピッチャー、天宮」


 グラウンドが、一瞬静まり返った。


 ライトを守っていた天宮真十郎が、マウンドへ向かう。


 同時に、守備位置が動く。


 捕手――高橋雪夜。

 二塁――高柳龍二郎。

 一塁――佐々木冬次郎。

 ライト――渡辺貴明。


 東鶴間ナインが、息をのむ。


 ――この場面で出すのか。


 それは、

 最後の賭けだった。


 天宮が、マウンドに立つ。


 雪夜が、マスクをかぶり、しゃがむ。


 視線が、合う。


 言葉は、いらなかった。


 こうして――

 天宮真十郎 × 高橋雪夜。


 一年生バッテリーが、

 この最悪の状況で、デビューすることになった。


 ワンアウト、ランナー二塁。


 依然として、ピンチ。


 だが――

 何かが、変わろうとしていた。


 九条咲は、静かに采配を振るった。


 マウンドには――天宮真十郎。

 そして、マスクをかぶるのは――高橋雪夜。


 この場面で出すのは、

 「点を取り返すため」ではない。


 これ以上、壊さないため。


 それだけだった。


 八番・小野冬誠。


 天宮の初球。


 内角低めに、一直線。


 ――ズバン。


「ストライク!」


 小野は一瞬、目を見開いた。


(速い……135前後か。

 ボールだと思ったが……)


 捕手・雪夜は、何も言わない。


 次のサイン。


 外角低め、もう一球。


 今度は、小野が振った。


 打球は、セカンド方向。


 高柳龍二郎が前に出る。


 捕って、投げて――アウト。


 ツーアウト、三塁。


 九番・山元太郎。


 初球を合わせるが、打球はショートへ。


 六条遊人が軽やかにさばき、

 一塁へ送球。


 アウト。


 ――三回表、終了。


 あれだけ荒れた試合が、

 ほんの数分で、静まった。


 三回裏。


 攻撃に入る前、

 九条咲が、ナインを集める。


「いいか……ここからは、

 天宮と高橋のバッテリーでいく」


 一瞬、空気が張りつめる。


「コールドにしたくないなら、

 点を取ってこい」


 それだけだった。


 だが、その一言で――

 東鶴間の背中は、少しだけ伸びた。


 一番・高柳龍二郎。


 打席に向かおうとした、その時。


 東栄ベンチが動く。


「ピッチャー交代」


 右の山元から、

 左の渡辺義明へ。


 調整登板。


 ――まだ、余裕だという意思表示。


 だが。


 東鶴間にとっては、

 ここからが、本当の勝負だった。

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