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248/323

第248話 決着、東栄対呉稲見

 全国大会準決勝。


 東栄高校対呉稲見高校。


 試合は八回まで無得点。


 壮絶な投手戦となっていた。


 九回表。


 呉稲見高校の攻撃。


 だが、東栄高校のマウンドに立つ佐藤秋一郎は、最後まで崩れる気配を見せなかった。


 155キロの剛速球。


 コーナーを突く制球力。


 高速スライダー。


 スプリット。


 高速シンカー。


 高速シュート。


 どの球も速く、鋭く、呉稲見打線にまともな打撃を許さなかった。


 もはや、あの155キロを打ち返せる者はいない。


 そんな空気すら、球場に漂っていた。


 秋一郎は九回表も呉稲見打線を封じ込める。


 スリーアウト。


 九回表終了。


 スコアは、いまだに0対0。


 九回裏。


 東栄高校の攻撃。


 ここで一点を取れば、サヨナラ勝ち。


 しかし、呉稲見高校のエース、一ノ瀬京次郎も簡単には崩れなかった。


 147キロの速球。


 高速スライダー。


 スラーブ。


 縦のスライダー。


 三種類のスライダーを操るその投球は、最後まで東栄打線を苦しめていた。


 東栄打線も、京次郎を打ち崩せない。


 ツーアウト。


 九回裏も、このまま終わるかに見えた。


 そして打席には、三番。


 佐藤秋一郎。


 左打席へ入る秋一郎を前に、マウンドの一ノ瀬京次郎は少し間を取った。


(……秋一郎を抑えれば、延長か……)


 京次郎は息を整える。


 体力はまだ残っている。


 完投するだけの力はある。


 だが、スライダーを投げ続けた右腕には、確実に疲労が出ていた。


 それでも、逃げるつもりはなかった。


 相手は佐藤秋一郎。


 世代ナンバー1。


 本物の天才。


 だからこそ、勝負する。


 京次郎は捕手のサインに頷いた。


 一球目。


 低めへ、縦のスライダー。


 秋一郎は動かない。


「ストライク!」


 まず一つ。


 二球目。


 内角高めへ、高速スライダー。


 秋一郎は、これも見逃した。


「ストライク!」


 ツーストライク。


 京次郎は秋一郎を追い込んだ。


 だが、その瞬間、京次郎の胸に小さな違和感が生まれた。


(……見逃した?)


 二球連続。


 秋一郎はバットを出さなかった。


 振れなかったのか。


 それとも、振らなかったのか。


 京次郎はわずかに迷った。


 だが、捕手のサインに頷く。


 三球目。


 外角低めのストレート。


 京次郎の指先から、白球が放たれる。


 その瞬間だった。


 秋一郎の身体が動いた。


 迷いはなかった。


 まるで、その球を待っていたかのように。


 秋一郎は思いきりバットを振り抜いた。


 乾いた音が、球場に響く。


 打球はレフト方向へ高く舞い上がった。


 外野手が追う。


 だが、届かない。


 打球は、そのままスタンドへ飛び込んだ。


 ホームラン。


 サヨナラホームラン。


 球場が、一瞬静まり返った。


 そして次の瞬間、東栄ベンチが爆発したように沸き上がった。


 秋一郎はゆっくりとベースを回る。


 その表情は、派手に喜ぶものではなかった。


 ただ、静かに勝負を終えた者の顔だった。


(……京次郎のスライダーは打てない)


 秋一郎はベースを踏みながら思っていた。


(なら、ストレートを狙うしかなかった……)


 京次郎の三種類のスライダーは、最後まで厄介だった。


 下手に手を出せば、空振りか凡打になる。


 だから、秋一郎は待った。


 スライダーには手を出さない。


 ストレートだけを狙う。


 その一球を、最後に仕留めた。


 マウンドの京次郎は、打球が消えた方向を見つめていた。


(……狙っていたのか……)


 悔しさが、胸の奥から込み上げてくる。


(ワシのストレートを……)


 京次郎は秋一郎に負けた。


 投手としても。


 打者としても。


 最後の最後で、世代ナンバー1に届かなかった。


 秋一郎がホームベースを踏む。


 その瞬間、試合終了。


 東栄高校、サヨナラ勝ち。


 全国大会決勝進出。


 呉稲見高校は、準決勝で敗れることになった。


 世代ナンバー1、佐藤秋一郎。


 世代ナンバー2、一ノ瀬京次郎。


 二人の投手による壮絶な戦いは、最後の一振りで決着した。


 軍配は、佐藤秋一郎に上がった。

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