第247話 東栄対呉稲見
全国大会準決勝。
東栄高校対呉稲見高校。
世代ナンバー1、佐藤秋一郎。
世代ナンバー2、一ノ瀬京次郎。
二人の投手が、決勝進出をかけてぶつかる試合が始まった。
だが、その試合は、序盤から壮絶な投手戦となった。
東栄高校のマウンドに立つ佐藤秋一郎は、初回から圧倒的だった。
155キロの速球。
打者の手元で伸びるその球は、呉稲見打線のバットを何度も空振りさせた。
ただ速いだけではない。
外角いっぱい。
内角の厳しいところ。
低めぎりぎり。
どの球も、正確にコースを突いてくる。
さらに、高速スライダー。
スプリット。
高速シンカー。
高速シュート。
変化球でさえ、すべてが速い。
呉稲見の打者たちは、速球を意識すれば変化球に崩され、変化球を意識すれば速球に差し込まれた。
佐藤秋一郎は、奪三振の山を築いていく。
世代ナンバー1。
本物の天才。
その異名にふさわしい投球だった。
だが、呉稲見高校の一ノ瀬京次郎も、まったく負けていなかった。
147キロの速球。
そして、三種類のスライダー。
高速スライダー。
スラーブ。
縦のスライダー。
横に逃げる球。
斜めに曲がる球。
縦に落ちる球。
同じスライダー系でも、軌道も速度も違う。
東栄打線は、その変化に翻弄されていた。
ストレートを待てば、スライダーが外へ逃げる。
横の変化を意識すれば、縦に落ちる。
見逃せばストライク。
振れば空振りか凡打。
一ノ瀬京次郎もまた、東栄打線を寄せつけなかった。
スライダーマン。
その異名は、決して大げさではなかった。
佐藤秋一郎が抑える。
一ノ瀬京次郎も抑える。
どちらの打線も、得点圏へ走者を進めることはあっても、最後の一本が出ない。
いや、出させてもらえない。
序盤が終わる。
中盤が終わる。
それでもスコアボードには、ゼロが並び続けていた。
全国大会準決勝。
決勝進出をかけた一戦。
その試合は、まさかの無得点のまま終盤へ入ろうとしていた。
部室のテレビでその試合を見ていた東鶴間高校野球部の面々は、ただ驚くしかなかった。
「なんだ……この二人?」
誰かが呟いた。
「同じ高校生なのか?」
「もはや、プロレベルだろう」
「これが、世代ナンバー1と2の戦いか……」
選手たちは、画面から目を離せなかった。
自分たちが戦っている高校野球と、同じ競技のはずだった。
同じ高校生のはずだった。
それなのに、目の前の二人は別次元に見えた。
城南ヶ丘学園高校を倒した中月大学付属高校。
その中月にいる世代ナンバー4の桜川守でさえ、十分すぎるほど怪物だった。
だが、佐藤秋一郎と一ノ瀬京次郎は、そのさらに上にいる。
そんな現実を、東鶴間の選手たちは思い知らされていた。
高柳龍二郎は黙ってテレビを見つめていた。
天宮真十郎は、同じ投手として二人の投球から目を離せなかった。
六条遊人も、新井元気も、一年生たちも、言葉を失いかけていた。
だが、その中で一人だけ。
高橋雪夜だけは、静かに試合を見ていた。
(……この試合……延長戦になるかも……)
驚いていないわけではない。
秋一郎の球も、京次郎の投球も、雪夜には恐ろしいほど高いレベルに見えていた。
だが、雪夜はただ驚くだけではなく、試合の流れを見ていた。
どちらも崩れない。
どちらも大きな隙を見せない。
打線が攻略するより先に、試合が九回を終えてしまう可能性がある。
雪夜はそう感じていた。
そして――。
八回裏が終わった。
スコアは、いまだに0対0。
無得点のまま、試合は九回表へ向かおうとしていた。
世代ナンバー1と世代ナンバー2の戦いは、まだ終わる気配を見せていなかった。




