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第246話 全国大会、準決勝

 城南ヶ丘学園高校が全国大会準々決勝で敗れる。


 その波乱は、東鶴間高校野球部にも大きな衝撃を与えた。


 だが、それでも東鶴間がやるべきことは変わらなかった。


 打倒、城南ヶ丘。


 打倒、桜桜花。


 その目標に変わりはない。


 全国の壁がどれほど高くても、まず越えなければならない相手はそこにいる。


 だから、東鶴間高校野球部の面々は今日も練習を続けていた。


 そして、全国大会は準決勝へ進む。


 佐藤秋一郎がいる東栄高校。


 一ノ瀬京次郎がいる呉稲見高校。


 その二校が、全国大会決勝への切符をかけて戦おうとしていた。


 東鶴間高校野球部の面々は、その試合を見るために部室へ集まっていた。


 テレビの画面には、試合前の両校の様子が映っている。


 東栄高校の選手たち。


 呉稲見高校の選手たち。


 その中に、佐藤秋一郎と一ノ瀬京次郎の姿があった。


 新井元気はテレビを見ながら、隣の高橋雪夜へ声をかけた。


「雪夜……どっちが勝つと思うかな?」


 雪夜は少し考えた。


 戦力。


 投手力。


 打線。


 守備。


 そして、両校の流れ。


 それらを頭の中で整理してから、静かに答える。


「戦力なら、互角か……やや呉稲見が上だと思う」


「呉稲見?」


 元気が少し驚いたように聞き返す。


 雪夜は頷いた。


「でも、秋一郎がいるから、東栄にも勝機があると思うよ」


「へぇー……オイラは東栄が勝つと思ったけど」


 元気は画面に映る佐藤秋一郎を見た。


 世代ナンバー1。


 本物の天才。


 そう呼ばれる投手がいるなら、東栄が有利に見えるのも無理はなかった。


 だが、雪夜の表情は簡単には晴れなかった。


「秋一郎だけを見たら、東栄が優位だと思う」


 雪夜はテレビ画面に映る呉稲見高校のエースを見る。


「でも……京次郎は厄介だよ」


 一ノ瀬京次郎。


 世代ナンバー2と呼ばれる投手。


 異名は、スライダーマン。


 147キロの速球。


 豊富なスタミナ。


 ほとんどの試合を完投、あるいは完封してきた怪物。


 そして何より、三種類のスライダーを投げ分ける投手だった。


 高速スライダー。


 スラーブ。


 縦のスライダー。


 横に逃げる球。


 斜めに曲がる球。


 縦に落ちる球。


 打者からすれば、すべてがスライダーに見えても、軌道も速度も違う。


 そのすべてに対応しなければならない。


「特に、三種類のスライダーを投げるから……この試合、厳しいものになると思う」


 雪夜の言葉に、元気は小さく息を吐いた。


「まあ、オイラたちの中学時代のチームメイトが戦うんだから、すごい試合になるとは思うけど」


「……そうだね」


 雪夜は静かに頷いた。


 佐藤秋一郎。


 世代ナンバー1。


 本物の天才。


 155キロの速球。


 正確なコントロール。


 豊富なスタミナ。


 投手として必要なものを、すべて高い次元で備えた存在。


 一ノ瀬京次郎。


 世代ナンバー2。


 スライダーマン。


 三種類のスライダーを操り、相手打線を沈黙させる投手。


 どちらも、雪夜が知っている投手だった。


 かつて、同じチームにいた。


 かつて、自分とバッテリーを組んでくれた。


 その二人が、今は全国大会準決勝という舞台で戦おうとしている。


 遠い。


 あまりにも遠い場所だった。


 東鶴間高校は、県大会準々決勝で敗れた。


 城南ヶ丘に七回コールドで敗れた。


 その城南ヶ丘も、全国大会準々決勝で敗れた。


 そして今、秋一郎と京次郎は全国の頂点をかけて戦う場所にいる。


 雪夜はテレビ画面を見つめた。


 どちらが勝つのか分からない。


 秋一郎が勝つのか。


 京次郎が勝つのか。


 どちらが決勝へ進むのか。


 それでも、この一戦を見届けなければならないと思った。


 かつて、自分とバッテリーを組んでくれた二人の対決だから。


 自分とは違う道を進み、全国の舞台に立った二人の投手だから。


 部室の中に、静かな緊張が流れる。


 高柳龍二郎は腕を組み、テレビを見ていた。


 天宮真十郎は、同じ投手として二人の姿から目を離せなかった。


 六条遊人も、新井元気も、一年生たちも、画面に集中していた。


 東栄高校対呉稲見高校。


 全国大会準決勝。


 佐藤秋一郎と一ノ瀬京次郎。


 世代ナンバー1と世代ナンバー2の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

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