第244話 城南ヶ丘対中月
全国大会準々決勝。
城南ヶ丘学園高校対中月大学付属高校。
その試合を、東鶴間高校野球部の面々は部室のテレビで見ていた。
自分たちを七回コールドで下した城南ヶ丘学園高校。
県大会を制し、全国大会でも勝ち上がってきた強豪。
その城南ヶ丘が、全国の舞台でどこまで通用するのか。
東鶴間の選手たちは、画面を食い入るように見つめていた。
だが、試合は簡単なものではなかった。
序盤、城南ヶ丘学園高校が先制した。
桐原礼二が粘り強く投げ、打線もなんとか一点をもぎ取った。
しかし、そこからが続かない。
中月大学付属高校の先発、桜川守。
世代ナンバー4と呼ばれる右腕は、城南ヶ丘打線を簡単には寄せつけなかった。
球速は145キロ。
だが、ただ速いだけではない。
高速スライダー。
高速シュート。
そして、変化量とキレを兼ね備えた高速シンカー。
どの球も鋭く、重く、打者の芯を外していく。
若田部安高も、島田弦一郎も、花枝正臣も、簡単には打ち崩せなかった。
城南ヶ丘は先制した。
だが、追加点が取れない。
そのまま試合は、中盤へ進んだ。
中盤。
中月大学付属高校が反撃に出た。
桐原礼二も粘っていた。
県大会決勝を完封した投手。
東鶴間を七回まで投げきった投手。
城南ヶ丘のエースとして、簡単に崩れるわけにはいかなかった。
だが、中月打線は甘くなかった。
わずかな隙を突き、二点を奪う。
逆転。
スコアは2対1。
城南ヶ丘学園高校は、追いかける立場となった。
それでも、礼二は踏ん張った。
追加点を与えない。
これ以上離されれば、試合が決まってしまう。
若田部も必死にリードし、城南ヶ丘ナインも守り続けた。
終盤まで、試合は2対1の接戦のままだった。
テレビで見ていた東鶴間の選手たちも、息を呑んでいた。
「まだ分からないでやんすよ……」
新井元気が小さく呟く。
高柳龍二郎も、腕を組んだまま画面を見つめていた。
高橋雪夜は、桜川守の投球と、桐原礼二の表情をじっと見ていた。
城南ヶ丘は強い。
それは間違いない。
だが、中月大学付属高校は、その城南ヶ丘を上回ろうとしていた。
九回表。
中月大学付属高校の攻撃。
打席には九番、桜川守。
投手でありながら、打席にも立つ中月のエース。
マウンドの桐原礼二は、これ以上の失点を避けたかった。
2対1。
まだ一点差。
九回裏に城南ヶ丘打線がつながれば、同点、あるいは逆転の可能性もある。
だが、ここで一点を失えば、試合は一気に苦しくなる。
礼二は若田部のサインに頷いた。
低めのストレート。
決して甘い球ではなかった。
だが――。
桜川守は、その球を待っていた。
迷いなくバットを振り抜く。
乾いた打球音が、球場に響いた。
打球は高く、遠くへ伸びていく。
外野手が追う。
だが、届かない。
打球はフェンスを越えた。
ホームラン。
中月大学付属高校、三点目。
スコアは3対1。
ホームベースを踏んだ桜川守は、静かに心の中で呟いた。
(駄目だよ……僕にストレートを投げては……)
投げても一流。
打っても勝負を決める。
その姿は、まさに世代ナンバー4と呼ばれるにふさわしいものだった。
城南ヶ丘ベンチの空気が重くなる。
礼二はマウンドで唇を噛んだ。
若田部も、マスク越しに桜川の背中を見つめていた。
たった一点。
だが、その一点はあまりにも大きかった。
九回裏。
城南ヶ丘学園高校、最後の攻撃。
だが、桜川守は崩れなかった。
高速スライダー。
高速シュート。
高速シンカー。
そして、伸びのあるストレート。
城南ヶ丘打線は、最後まで桜川を打ち崩せなかった。
桐原礼二も、若田部安高も、島田弦一郎も、花枝正臣も。
県大会を制した打線が、沈黙させられていく。
そして、最後の打者が打ち取られた。
試合終了。
中月大学付属高校、3対1で勝利。
桜川守は、完投勝利をあげた。
城南ヶ丘学園高校の全国大会は、準々決勝で終わった。
部室の中は、静まり返っていた。
テレビを見ていた東鶴間高校野球部の面々は、誰もすぐには言葉を発しなかった。
自分たちを七回コールドにした城南ヶ丘。
県大会決勝で桜桜花を完封した桐原礼二。
その城南ヶ丘が、全国大会準々決勝で敗れた。
その事実が、簡単には飲み込めなかった。
(まさか……うちを七回コールドにした城南ヶ丘が、負けるなんて……)
誰もが、そう思っていた。
だが、現実だった。
城南ヶ丘は負けた。
そして、中月大学付属高校が勝った。
全国の壁。
その高さを、東鶴間の選手たちは画面越しに思い知らされていた。
六条遊人は、呆然とテレビを見つめていた。
高柳龍二郎は、桜川守の名前を胸に刻むように黙っていた。
天宮真十郎は、同じ投手として、その姿から目を離せなかった。
新井元気も、いつもの明るさを失っていた。
そして、高橋雪夜は静かに息を吐いた。
自分の予想は当たった。
中月大学付属高校が勝つ。
世代ナンバー4の桜川守がいるから。
そう言った予想は、現実になった。
だが、当たったからといって嬉しいわけではなかった。
城南ヶ丘を倒した中月。
その中月のさらに上には、佐藤秋一郎、一ノ瀬京次郎、鈴木草助のような存在がいる。
全国には、まだ信じられないほど強い選手たちがいる。
東鶴間高校野球部が目指す場所は、想像以上に遠かった。
それでも、雪夜はテレビ画面を見つめ続けた。
いつか、自分たちもあの舞台へ行くために。
そして、あのレベルの相手と戦うために。
東鶴間高校野球部は、もっと強くならなければならなかった。




