第242話 東鶴間、一年生の想い
東鶴間高校野球部の二年生たちが、それぞれの課題に向き合っている中、一年生たちもまた個別練習に取り組んでいた。
浮田総二は、打撃練習をしていた。
総二は、バットに当てる能力が高い。
ミートする技術もある。
だが、パワーがあるわけではなかった。
ただ当てるだけでは、ヒットにはならない。
打球に力がなければ、内野ゴロで終わることもある。
外野まで運べなければ、相手の守備を越えることはできない。
当てる能力と、ヒットにする能力は別物なのだ。
総二はそれを分かっていた。
だからこそ、ただバットに当てるだけではなく、打球を強くする練習を繰り返していた。
高い打率を残せる打者になるために。
東鶴間の打線を支える選手になるために。
浮田総二は、黙々とバットを振り続けていた。
白石広志は、投球練習と守備練習を中心に取り組んでいた。
今の東鶴間高校野球部は、選手が十一人しかいない。
マネージャーは三人いる。
だが、公式戦には出られない。
もし来年、新入部員が入ってこなかった場合。
あるいは、入ってきてもすぐに試合で使えない場合。
広志自身が野手として出場する可能性もあった。
投手としてだけでは足りない。
守れなければ、チームの力にはなれない。
広志はそう考えていた。
だから、守備練習をする。
捕る。
投げる。
動く。
基本を一つずつ確認する。
少しでも野球部の役に立ちたい。
その思いで、白石広志は練習を続けていた。
竹田栄司は、守備練習を中心にしていた。
栄司には打撃力がある。
足も遅いわけではない。
だが、守備が苦手だった。
打てても、守れなければ試合には出られない。
それを、栄司は痛いほど分かっていた。
城南ヶ丘学園高校との試合。
栄司に出番はなかった。
ベンチから試合を見ていた。
東鶴間が苦しんでいるのを見ていた。
それでも、自分はグラウンドに立てなかった。
悔しかった。
打ちたい。
試合に出たい。
チームの力になりたい。
そのためには、守備をなんとかしなければならない。
栄司は何度も打球を受け、何度も送球を繰り返した。
苦手だからこそ、逃げるわけにはいかなかった。
夏目海は、投球練習を中心に取り組んでいた。
城南ヶ丘戦。
海は1イニングだけ登板した。
だが、二失点した。
たった1イニング。
それでも、強豪校の打線は海の球を逃してくれなかった。
その悔しさが、海の中に残っていた。
自分のストレートは、まだ通用しない。
もっと伸びが必要だ。
もっと力が必要だ。
もっと相手を押し込める球が必要だ。
海はそう感じていた。
だから、今日も腕を振る。
一球ずつ、ストレートを磨く。
次に強豪校と戦う時、同じように打たれるわけにはいかない。
夏目海は、悔しさを胸に投げ続けていた。
伯方歩夢もまた、投球練習を中心にしていた。
城南ヶ丘戦。
歩夢は2イニングで三失点した。
そして、試合を終わらせる一打を打たれた。
七回裏。
花枝正臣の打球が左中間へ飛んだ瞬間。
5対12。
七回コールド。
東鶴間の夏が終わった。
そのマウンドに立っていたのが、自分だった。
歩夢は、そのことをずっと気にしていた。
あの日、悔しくて涙を流した。
高橋雪夜は言ってくれた。
歩夢はよくやったよ、と。
その言葉は嬉しかった。
救われた部分もあった。
けれど、悔しさが消えたわけではなかった。
次に城南ヶ丘と当たった時は、勝てる投球をしたい。
打たれて終わる投手ではなく、抑えてチームを勝たせる投手になりたい。
その思いで、伯方歩夢は今日も投げ込んでいた。
早田士郎は、打撃練習と守備練習に取り組んでいた。
自分には足がある。
それは武器だ。
だが、今の自分にはそれしかない。
打てない。
守れない。
足だけでは、試合には出られない。
城南ヶ丘戦でも、早田に出番はなかった。
悔しくなかったわけではない。
本当は、試合に出たかった。
グラウンドに立ちたかった。
自分の足で、チームを助けたかった。
だが、今の自分はまだその立場ではなかった。
だからこそ、練習するしかない。
打撃力を上げる。
守備力を上げる。
足だけの選手ではなく、試合で使ってもらえる選手になる。
早田士郎は、そのためにバットを振り、守備練習を繰り返していた。
一年生たちは、まだ未熟だった。
だが、それぞれが悔しさを知っていた。
出番がなかった悔しさ。
打たれた悔しさ。
守れない悔しさ。
力不足を思い知らされた悔しさ。
その悔しさを、ただ悔しいままで終わらせるつもりはなかった。
浮田総二は、打率を残せる打者になるために。
白石広志は、投手としても野手としてもチームを助けるために。
竹田栄司は、試合に出られる守備力を身につけるために。
夏目海は、強豪校に通用するストレートを投げるために。
伯方歩夢は、次こそ勝てる投球をするために。
早田士郎は、足だけではない選手になるために。
それぞれが、今の自分に足りないものと向き合っていた。
東鶴間高校野球部は、まだ強豪ではない。
城南ヶ丘にも、桜桜花にも届いていない。
だが、少しずつ。
本当に少しずつ。
選手たちは強くなろうとしていた。




