↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
237/323

第237話 副主将

 夏目真衣を副キャプテンに投票する恒例のくだりも終わり、東鶴間高校野球部の面々は、今度こそ真面目に副キャプテンを決めることになった。


 再び投票用紙が配られる。


 今度はふざけない。


 誰が新キャプテンとなった高橋雪夜を支えるのか。


 誰が、これからの東鶴間高校野球部を共に引っ張っていくのか。


 部員たちは、それぞれ考えながら名前を書いた。


 投票が終わると、開票はキャプテンに就任したばかりの雪夜が行うことになった。


 雪夜は投票用紙を前にして、少しだけ苦笑する。


(まさか……キャプテンになって二度目の仕事も、開票とはね……)


 それでも、これもキャプテンの仕事なのだろう。


 雪夜は一枚ずつ票を確認し、集計していった。


 そして、開票が終わる。


 部室の視線が雪夜へ集まった。


「それでは、発表します」


 雪夜は紙を見ながら、最初の名前を読み上げた。


「白石広志、一票」


 一年生の白石広志に一票が入った。


 その瞬間、一年生たちの間に少しだけざわめきが起きる。


 一年生でも票が入る。


 候補は本当に全員なのだと、改めて分かったからだった。


 白石は少し驚いたように目を瞬かせた。


 だが、雪夜は続ける。


「……六条遊人、十三票」


 部室の空気が止まった。


 圧倒的多数。


 副キャプテンは、六条遊人で決まりだった。


 九条咲も頷く。


「六条で決まりだな」


 だが、その瞬間だった。


 六条遊人が勢いよく立ち上がった。


「嫌です!」


 部室中の視線が六条へ向く。


 六条は必死な顔で続けた。


「お願いですから、違う人にしてください!」


 雪夜も、咲も、部員たちも驚いていた。


 咲は静かに尋ねる。


「なぜだ、六条」


 六条は唇を噛んだ。


 そして、ゆっくりと話し始める。


「僕は一年間、副キャプテンをして……進藤キャプテンを支えることが出来ませんでした」


 その声には、悔しさが滲んでいた。


「チームが苦しんでいる時に、僕は打撃でも結果を残せなかったし……そんな僕が副キャプテンに務まるとは思えません」


 部室が静かになる。


 六条は去年から副キャプテンだった。


 進藤竜也を支える立場にいた。


 けれど、本人の中では、支えきれなかったという思いが残っていた。


 城南ヶ丘戦でも、六条は悔しい結果に終わった。


 だからこそ、また副キャプテンを任されることが怖かった。


 咲は六条を見つめたまま言う。


「なら六条」


「はい……」


「お前より副キャプテンに向いている者はいるのか?」


 六条は言葉に詰まった。


 そして、考えた。


 高柳龍二郎。


 打者としては頼りになる。


 だが、龍二郎は背中で引っ張るタイプで、全員を細かくまとめる役割には向いていない。


 天宮真十郎。


 東鶴間のエース。


 ただでさえ投手として大きな責任を背負っている。


 これ以上、負担を増やすのは難しい。


 新井元気。


 明るく、チームの空気を変えられるムードメーカー。


 だが、本人も言っていた通り、キャプテンや副キャプテンという役割には向いていない。


 一年生に任せるには、まだ早い。


 マネージャーの夏目真衣は優秀だが、先ほどのくだりで本人が全力で否定していた。


 そう考えていくと、答えは一つしかなかった。


 六条は小さく息を吐いた。


「……やっぱり、僕が副キャプテンになります」


 咲は静かに頷く。


「そうか。副キャプテンをやってくれるか」


「はい」


 六条は顔を上げた。


「今度こそ、キャプテンを支えたいと思います」


 その言葉に、雪夜は少しだけ目を見開いた。


 自分を支える。


 六条はそう言ってくれた。


 六条は部員たちの方を向く。


「これからも、副キャプテンとして、頑張ります」


 部室に拍手が起きた。


 雪夜の時と同じように、最初は小さく。


 やがて、大きく。


 六条遊人は、再び東鶴間高校野球部の副キャプテンとなった。


 雪夜は安心したように笑う。


「六条、よろしくね」


「こちらこそ、雪夜」


 新キャプテンと副キャプテン。


 二人が並んだことで、新しい東鶴間高校野球部の形が少しずつ見えてきた。


 だが――。


 六条は咳払いをすると、真面目な顔で言った。


「と、いうわけで……副副キャプテンを決めたいと思います」


 部室の空気が、再び止まった。


 そして次の瞬間、二年生たちが一斉に突っ込んだ。


「それ、去年も言ってただろ!」


 六条は少しだけ笑った。


「いや、流れとしては必要かなと思って」


「必要ないでやんす!」


 元気がすぐに叫ぶ。


 高柳も呆れたように言った。


「副キャプテンまで決めたんだから、もういいだろう」


 天宮も苦笑する。


「さすがに副副キャプテンは増やしすぎだね」


 部室に笑いが広がった。


 三年生が引退し、重く沈んでいた空気。


 城南ヶ丘と桜桜花という大きな壁を前にした不安。


 それでも、東鶴間高校野球部には、少しずつ明るさが戻っていた。


 新キャプテン、高橋雪夜。


 副キャプテン、六条遊人。


 不安はある。


 頼りないところもある。


 けれど、このチームはまた前へ進もうとしていた。


 進藤竜也、田中三郎、中山太郎から託された願いを胸に。


 城南ヶ丘と桜桜花を越えるために。


 新しい東鶴間高校野球部が、ここから始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。