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第234話 主将決め

 東鶴間高校野球部は、新しいキャプテンを決めることになった。


 三年生が引退した以上、いつまでも進藤竜也に頼ることはできない。


 次に、この野球部を引っ張る者を決めなければならなかった。


 九条咲は部室に集まった選手たちを見渡す。


「まず、候補は二年生から決める」


 その言葉に、二年生たちの表情が少し硬くなった。


 副キャプテンの六条遊人。


 作戦参謀の高橋雪夜。


 孤高の天才打者、高柳龍二郎。


 東鶴間のエース、天宮真十郎。


 そして、ムードメーカーの新井元気。


 以上の五名。


 この中から、新しいキャプテンを決めることになった。


 咲は腕を組みながら言う。


「とりあえず……キャプテンになりたい者はいるか」


 部室が静まり返る。


 誰も手を挙げなかった。


 雪夜も、六条も、高柳も、天宮も、元気も。


 誰一人として、自分から名乗り出ようとはしなかった。


 咲は少しだけため息をつく。


「まあ、そうなるか」


 進藤竜也というキャプテンの背中を見てきたからこそ、簡単には手を挙げられない。


 それも咲には分かっていた。


「なら、話し合ってみるか」


 その言葉に、部室の空気が少し動いた。


 最初に口を開いたのは、六条遊人だった。


「僕は、雪夜がキャプテンに向いているんじゃないかと思う」


 突然名前を出され、雪夜は少し驚いた。


「いや、僕より副キャプテンだった六条の方が向いていると思うけど」


 雪夜はすぐにそう返す。


 六条は困ったように笑った。


「僕は副キャプテンだからこそ、進藤キャプテンとの差を一番感じているんだよ」


「それを言ったら、僕だってキャプテン向きじゃないよ」


 雪夜は視線を落とす。


 作戦を考えることはできる。


 試合の流れを読むこともできる。


 けれど、進藤のように全員をまとめられるかと言われれば、自信はなかった。


 高柳龍二郎は腕を組んだまま、静かに言う。


「俺は……キャプテンに向いていない」


 その言葉は短かったが、重かった。


 龍二郎は打者としては誰よりも頼もしい。


 だが、自分がチーム全体をまとめる姿は想像できなかった。


 天宮真十郎も続ける。


「僕も……投手をやりながらキャプテンは、厳しいと思う」


 エースとして、試合で背負うものは大きい。


 そのうえでチーム全体を見る余裕があるかと言われれば、天宮にも自信はなかった。


 新井元気は両手を振る。


「オイラも、キャプテンに向いてないでやんす」


 その言い方に、少しだけ部室の空気が緩んだ。


 だが、誰も強く笑うことはできなかった。


 それだけ、キャプテンを決めるということが重かった。


 九条咲はその様子を見て、仕方なさそうに言った。


「話し合いで決まらないなら、じゃんけんか、くじ引きか、多数決で決めるか」


「じゃんけんは軽すぎませんか?」


 夏目真衣が冷静に言う。


「くじ引きも、さすがに……」


 小山唯も苦笑した。


 雪夜たちも頷く。


 話し合いの結果、多数決で決めることになった。


 投票するのは、二年生七名。


 六条遊人。


 高橋雪夜。


 高柳龍二郎。


 天宮真十郎。


 新井元気。


 マネージャーの夏目真衣。


 小山唯。


 そして一年生七名。


 浮田総二。


 白石広志。


 竹田栄司。


 夏目海。


 伯方歩夢。


 早田士郎。


 マネージャーの高柳冬美。


 合計十四名。


 この十四名の投票で、新しいキャプテンを決めることになった。


 咲は紙を配りながら言う。


「自分が本当にキャプテンにふさわしいと思う者の名前を書け。遠慮はいらない」


 選手たちは紙を受け取った。


 部室に、鉛筆の音だけが響く。


 誰がこの野球部を導くのか。


 誰が進藤竜也の後を継ぐのか。


 誰が、城南ヶ丘と桜桜花に挑む新チームの中心になるのか。


 それぞれが悩みながら、名前を書いていく。


 そして、投票が終わった。


 九条咲は集められた紙を前に置き、静かに息を吐いた。


「では、開票する」


 部室の空気が、再び張り詰めた。


 東鶴間高校野球部の新しいキャプテンが、今まさに決まろうとしていた。

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