第232話 決着、城南ヶ丘対桜桜花
九回裏。
桜桜花高校、最後の攻撃。
打席には一番、神谷光彦。
マウンドには桐原礼二。
だが、その礼二にも疲労ははっきりと見えていた。
七回を投げきった東鶴間戦。
そして、今日の決勝。
礼二の身体は限界に近づいていた。
神谷は、その隙を逃さなかった。
なんとか礼二の球を弾き返す。
ヒット。
ノーアウト、一塁。
桜桜花ベンチが沸き上がる。
まだ終わっていない。
続く二番、市原圭一。
左打席に入る市原は、簡単には終わらなかった。
礼二は全力で抑えにいく。
だが、市原は粘る。
ファウル。
ファウル。
際どい球は見逃す。
そして、ついにフォアボールを選んだ。
ノーアウト、ランナー二塁一塁。
桜桜花に、最後のチャンスが訪れた。
打席には三番、金村好郎。
左打席に入る好郎を前に、礼二は深く息を吐いた。
ここで打たれれば、一気に同点、あるいは逆転の可能性もある。
だが、礼二も退くわけにはいかなかった。
最後の夏。
県大会決勝。
ここで譲るわけにはいかない。
礼二は、執念で腕を振った。
ストレート。
変化球。
そして最後は、力で押し切った。
金村好郎のバットが空を切る。
「ストライク! バッターアウト!」
ワンアウト。
城南ヶ丘は、まず一つアウトを取った。
四番、宮本草太郎。
左打席へ入る宮本を、桜桜花ベンチが見つめていた。
立塚尚文。
神谷光彦。
宮本草太郎。
この三人は三年生だった。
ここで点を取れなければ、そこで三人の高校野球人生が終わる。
桜桜花の夏が終わる。
だが、礼二もまた三年生だった。
桐原礼二にとっても、ここで打たれれば、夏が終わるかもしれない。
譲れない。
どちらも、譲れなかった。
宮本は礼二の球を打ち返した。
打球はセンター方向へ上がる。
桜桜花ベンチが立ち上がる。
だが、センターの泉田陽一郎が落下点に入った。
捕球。
「アウト!」
ツーアウト。
桜桜花は、あと一人に追い込まれた。
五番、谷本智由。
右打席へ向かう谷本は、分かっていた。
ここで自分がアウトになれば、桜桜花の夏は終わる。
三年生たちの高校野球が終わる。
去年、全国大会を制した斉藤秀一たちの願いも、ここで途切れる。
礼二はマウンドで肩を上下させていた。
限界だった。
それでも、最後の力を振り絞る。
谷本も、食らいついた。
礼二の投じた球を、必死に打ち返す。
打球は左中間へ飛んだ。
落ちる。
誰もが、そう思った。
桜桜花ベンチが身を乗り出す。
ランナーがスタートを切る。
だが――。
センターの泉田陽一郎が走っていた。
必死に追う。
最後は地面すれすれに飛び込んだ。
グラブの中に、白球が収まる。
「アウト!」
その瞬間、試合終了。
城南ヶ丘学園高校の県大会優勝が決まった。
城南ヶ丘の選手たちがベンチから飛び出した。
マウンドの桐原礼二へ向かって駆け寄る。
若田部安高がマスクを外して叫ぶ。
花枝正臣も拳を突き上げる。
泉田陽一郎は地面に倒れ込んだまま、仲間たちに囲まれていた。
勝った。
城南ヶ丘学園高校が、県大会を制した。
一方、桜桜花高校の面々は、呆然としていた。
立塚尚文はベンチからグラウンドを見つめていた。
神谷光彦はホームベース付近で立ち尽くしていた。
宮本草太郎も、谷本智由も、言葉を失っていた。
二年連続の県大会優勝。
その夢は、叶わなかった。
去年の三年生。
斉藤秀一たち全国大会優勝メンバーの願いも、届かなかった。
グラウンドには、勝者と敗者が映っていた。
喜びを爆発させる城南ヶ丘。
呆然と立ち尽くす桜桜花。
県大会で優勝するか。
準優勝で終わるか。
たった一つの試合で、景色はここまで変わる。
無情にも、これが現実だった。
城南ヶ丘学園高校対桜桜花高校。
県大会決勝。
2対0。
城南ヶ丘学園高校が、県大会の頂点に立った。




