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第229話 県大会、決勝

 東鶴間高校野球部の三年生が引退してから、数日が過ぎた。


 グラウンドには、もう進藤竜也、田中三郎、中山太郎の姿はない。


 練習の空気も、どこか変わっていた。


 三年生がいない。


 それだけで、野球部は少し広く、少し寂しく感じられた。


 そして今日。


 県大会の決勝が始まろうとしていた。


 東鶴間高校野球部の面々は、部室に集まっていた。


 テレビの前に座り、静かに画面を見つめている。


 決勝に進出したのは、城南ヶ丘学園高校。


 東鶴間を七回コールドで下した相手だった。


 そして、もう一校は――。


 桜桜花高校。


 去年、東鶴間が五回コールドで敗れた相手だった。


 高柳龍二郎はテレビ画面を見ながら、隣にいる高橋雪夜へ声をかけた。


「なあ、雪夜」


「うん?」


「どっちが勝つと思う?」


 雪夜は少しだけ考えた。


 画面には、決勝前の両校の様子が映っている。


 城南ヶ丘の選手たち。


 桜桜花の選手たち。


 どちらも、東鶴間が越えられなかった相手だった。


「そうだね……」


 雪夜は静かに口を開いた。


「城南ヶ丘は、準決勝で蓮次郎を登板させて、礼二さんを休ませられた。これは大きいと思うよ」


 準決勝。


 城南ヶ丘学園高校のマウンドに上がったのは、滝橋蓮次郎だった。


 東鶴間戦では登板の機会がなかった投手。


 高橋雪夜と小学生時代にバッテリーを組んでいた投手。


 その蓮次郎は、準決勝で見事に完投をやり遂げていた。


 結果として、エースの桐原礼二を決勝まで休ませることに成功した。


 それは城南ヶ丘にとって、かなり大きな意味を持っていた。


「桜桜花は……準決勝で金村歳郎が完投した」


 雪夜は続ける。


「でも、野手の大半が一年生と考えると……経験では城南ヶ丘が優位かな」


 桜桜花高校は、若いチームだった。


 一年生が多く、勢いはある。


 だが、決勝という大舞台。


 その重圧を考えれば、城南ヶ丘の方が安定しているように見えた。


 おおかたの予想も、城南ヶ丘学園高校が有利というものだった。


 桐原礼二が休めている。


 若田部安高が捕手として試合を作れる。


 打線も強力。


 六本遊希も、準々決勝で一度崩れかけながら、ショートに戻って立ち直った。


 チームとしての完成度は高い。


 だが――。


 雪夜は画面に映る桜桜花高校の投手を見た。


 立塚尚文。


 準決勝で温存されていた三年生投手。


 球速は145キロ。


 そして、スライダーとカーブを極限まで高めてきた投手。


 去年の桜桜花とは違う。


 今の桜桜花は、一年生中心でありながら、確かな力を持っている。


 雪夜は小さく息を吐いた。


「でも、簡単な試合にはならないと思う」


 高柳は雪夜を見る。


「立塚さんか?」


「うん」


 雪夜は頷いた。


「立塚さんがどこまで城南ヶ丘打線を抑えるか。それ次第で、試合は分からなくなると思うよ」


 高柳は腕を組みながらテレビを見た。


「なるほどな」


 部室の中に、静かな緊張が流れる。


 東鶴間の選手たちは、ただの観客ではなかった。


 去年、自分たちを倒した桜桜花。


 今年、自分たちを倒した城南ヶ丘。


 その二校が、県大会の頂点をかけて戦う。


 自分たちが届かなかった場所で。


 自分たちが立てなかった舞台で。


 雪夜は、画面の中の両校を見つめていた。


 悔しさは、まだ消えていない。


 それでも、見届けなければならないと思った。


 城南ヶ丘学園高校対桜桜花高校。


 県大会決勝。


 東鶴間高校が越えられなかった二つの壁が、今まさにぶつかろうとしていた。

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