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第226話 勝利後の城南ヶ丘

 東鶴間高校との準々決勝を制した城南ヶ丘学園高校野球部の面々は、バスで学校へ戻るところだった。


 車内には、勝利の余韻が残っていた。


 準決勝進出。


 去年のベスト8を超える場所へ、城南ヶ丘は進んだ。


 選手たちはそれぞれ、今日の試合を振り返っていた。


 桐原礼二の投球。


 六本遊希の守備位置変更。


 花枝正臣のコールドを決める長打。


 そして、東鶴間高校の粘り。


 勝ったとはいえ、決して楽な試合ではなかった。


 そんな中、若田部安高は隣の滝橋蓮次郎へ声をかけた。


「滝橋」


「うん?」


「言いたいことは言えたのか」


 蓮次郎は少しだけ目を伏せた。


 そして、小さく頷く。


「うん……なんとか……」


 高橋雪夜と話した。


 小学生の頃のこと。


 投げてみたかったこと。


 雪夜の言葉があったから、野球を続けられたこと。


 短い会話だった。


 けれど、蓮次郎にとっては大切な時間だった。


 若田部はそれを見て、にやりと笑った。


「よかったな。愛しの雪夜君と話せて」


「そんなんじゃないよ」


 蓮次郎はすぐに否定した。


 だが、若田部は面白そうに肩をすくめるだけだった。


「はいはい」


「本当に違うって」


 蓮次郎は少し困ったように言った。


 それでも、その表情は試合前より少しだけ柔らかかった。


 雪夜と話せたことで、胸の奥に残っていたものが少しだけ軽くなっていた。


 一方、七回を投げきった桐原礼二は、妹の桐原礼里と話していた。


 礼二の顔には、疲労がはっきりと出ていた。


 投げた。


 打った。


 走った。


 そして、勝った。


 それでも、全身に残る重さは隠せなかった。


 礼里は、そんな兄を見て静かに言った。


「兄さん、お疲れ様」


「ああ……なんとか負けずに済んだよ」


 礼二はそう言って、小さく息を吐いた。


 東鶴間は強かった。


 高柳龍二郎には打たれた。


 高橋雪夜にも何度も打たれた。


 六本遊希のエラーから流れも傾きかけた。


 それでも、勝ちきった。


 城南ヶ丘のエースとして、礼二は役目を果たした。


 礼里は少し迷った後、口を開いた。


「それと……元気のことなんだけど……」


 礼二の表情が、ほんの少しだけ変わった。


 新井元気。


 礼里がかつて想いを寄せていた相手。


 そして、礼二がこの試合で絶対に打たせないと決めていた相手。


 礼二は少しだけ目を伏せた。


「その話は、家に帰ってからにしよう」


 礼里は兄の横顔を見る。


「……うん」


 それ以上は、何も言わなかった。


 バスは学校へ向かって進んでいく。


 車内には、勝利の空気と、次の準決勝へ向けた緊張が混ざっていた。


 やがて、バスが城南ヶ丘学園高校に到着した。


 野球部の面々は荷物を持ち、それぞれ帰路についた。


 勝利の余韻に浸る者。


 次の準決勝のことを考える者。


 自分のプレーを振り返る者。


 そして、東鶴間高校の粘りを思い出す者。


 それぞれの思いを抱えながら、城南ヶ丘の選手たちは学校をあとにしていった。


 桐原礼二と桐原礼里も、並んで帰路につく。


 兄妹の間には、いつもより少し重い沈黙があった。


 話さなければならないことがある。


 それを、二人とも分かっていた。


 やがて、桐原兄妹は自宅に着いた。


 玄関の扉を開ける。


 試合の熱気は、もう球場に置いてきた。


 ここからは、兄と妹の時間だった。


 そして二人は、過去の話をすることになる。

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