↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
222/320

第222話 城南ヶ丘戦、試合後

 試合終了。


 5対12。


 七回コールド。


 城南ヶ丘学園高校が、東鶴間高校を下し、準決勝進出を決めた。


 その瞬間、城南ヶ丘ナインはベンチから飛び出していた。


「勝ったぞ!」


「準決勝だ!」


「よし!」


 選手たちは互いに肩を叩き合い、喜びを爆発させていた。


 満身創痍の桐原礼二も、ゆっくりとその輪の中へ入っていく。


 ここまで投げ、打ち、走り、チームを勝利へ導いたエース。


 礼二の表情には疲労が色濃く残っていた。


 それでも、勝った。


 その事実だけが、今は何より大きかった。


 少し遅れて、滝橋蓮次郎もグラウンドへ戻ってきた。


 次の回に備え、ブルペンで肩を作っていた滝橋。


 しかし、彼がマウンドに上がることはなかった。


 城南ヶ丘は、七回コールドで試合を終わらせた。


 滝橋は仲間たちの輪に加わりながら、東鶴間ベンチの方へ視線を向けた。


 そこには、高橋雪夜がいた。


(雪夜……)


 滝橋は胸の奥で呟く。


(僕が投げることは、なかったね……)


 会いたかった。


 話したかった。


 そして、戦いたかった。


 小学生の頃、バッテリーを組んでいた相手。


 自分に野球を続ける理由をくれた相手。


 その雪夜と、公式戦の舞台で向き合うことはなかった。


 勝った。


 チームは勝った。


 それでも、滝橋の胸には小さな悔しさが残っていた。


 一方、東鶴間高校の選手たちは、静かにベンチへ戻ろうとしていた。


 誰もすぐには言葉を発しなかった。


 進藤竜也は、涙をこらえきれなかった。


 中山太郎も、マスクを外したまま泣いていた。


 田中三郎は、ベンチへ向かいながら顔を伏せていた。


 三年生の夏が終わった。


 その現実が、東鶴間ナインの胸に重くのしかかっていた。


 高橋雪夜は、城南ヶ丘の輪を見る。


 その中に、滝橋蓮次郎の姿があった。


(……蓮次郎を引きずり出せないで、終わったのか……)


 雪夜は唇を噛む。


 礼二を降ろせなかった。


 蓮次郎と戦うところまで、届かなかった。


 自分は打った。


 何度も出塁した。


 それでも、チームは負けた。


 それが野球なのだと、雪夜は痛いほど思い知らされていた。


 勝った者たちがいる。


 負けた者たちがいる。


 同じグラウンドに立っていても、試合が終わった瞬間、その景色はまったく違うものになる。


 城南ヶ丘の選手たちは、次の試合へ進む。


 東鶴間の三年生たちは、ここで終わる。


 その差は、あまりにも大きかった。


 東鶴間ナインは、ベンチへ戻った。


 泣いている者。


 俯いている者。


 何も言えずに立ち尽くす者。


 それぞれが、敗北を受け止めようとしていた。


 監督の九条咲は、そんな選手たちを見つめていた。


 進藤。


 田中。


 中山。


 三年生たちの顔を、咲は一人ずつ見た。


 そして、ゆっくりと口を開こうとした。


 東鶴間高校の夏を終えた選手たちへ。


 監督として、最後に伝える言葉があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。