↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
221/318

第221話 城南ヶ丘戦、七回裏、後半

 七回裏。


 ワンアウト、ランナー二塁一塁。


 打席には五番、花枝正臣。


 右打席に入る花枝を前に、捕手の中山太郎はミットを構えた。


(こいつは長打狙いで大振りして、アウトになっていたな)


 花枝はパワーヒッター。


 ホームランを狙えば、力みが出る。


 そこを突けば、まだ打ち取れる。


 中山はそう考えていた。


 だが、花枝の考えは違っていた。


(もう、ホームランはいらない……)


 花枝はバットを握り直す。


(長打で終わらせる)


 ホームランでなくてもいい。


 二塁ランナー、そして一塁ランナーまで返せば、この試合は終わる。


 城南ヶ丘学園高校の七回コールド勝ち。


 それを決めるために、花枝は打席に立っていた。


 伯方歩夢の初球。


 外角低めの高速スライダー。


 花枝は手を出さなかった。


「ストライク!」


 ワンストライク。


 二球目。


 内角高めのストレート。


 花枝はこれも見送る。


「ボール!」


 ワンストライク、ワンボール。


 中山は小さく息を吸った。


(ここで、スローカーブで内野ゴロにする)


 速い球を見せた。


 内角も見せた。


 なら、ここで緩い球。


 タイミングを外し、打たせて取る。


 中山はサインを出した。


 伯方が頷く。


 三球目。


 外角低めへ、スローカーブ。


 緩く、落ちていく球。


 だが――。


 花枝は、その球を待っていた。


 バットが振り抜かれる。


 乾いた音が、球場に響いた。


 打球は左中間へ飛んでいく。


 中山の目が見開かれた。


(しまった――)


 二塁ランナーの若田部安高が、三塁を蹴る。


 外野を抜けた打球を、センターの新井元気が追う。


 若田部はそのままホームへ帰った。


 城南ヶ丘、十一点目。


 スコアは5対11。


 だが、まだ終わっていない。


 一塁ランナーの島田弦一郎も、三塁ベースを蹴っていた。


「ホーム!」


 東鶴間ベンチから声が飛ぶ。


 新井が必死に返球する。


 中継に入ったショートの六条遊人が捕球し、すぐにホームへ投げた。


 だが――。


 投げた時には、もう遅かった。


 島田の足が、ホームベースを踏んでいた。


 審判の手が大きく広がる。


「セーフ!」


 城南ヶ丘、十二点目。


 スコアは5対12。


 七点差。


 七回コールド。


 その瞬間、試合終了が告げられた。


 城南ヶ丘学園高校のベンチから、選手たちが飛び出してくる。


「勝った!」


「よし!」


「準決勝だ!」


 選手たちは花枝のもとへ駆け寄り、勝利を喜んでいた。


 桐原礼二は静かに息を吐き、ベンチ前で仲間たちを見つめていた。


 若田部安高も、拳を握った。


 六本遊希は、喜ぶ仲間たちの中で少しだけ遅れて笑った。


 城南ヶ丘学園高校は、準決勝へ進む。


 その事実に、グラウンドの空気は大きく揺れていた。


 だが――。


 東鶴間高校の選手たちは、動けなかった。


 呆然としていた。


 終わった。


 その言葉だけが、胸の奥に落ちていく。


 高橋雪夜は、セカンドの守備位置で立ち尽くしていた。


 新井元気は、外野からホームの方を見ていた。


 天宮真十郎は、ライトの守備位置で拳を握りしめていた。


 伯方歩夢は、打たれたことで試合が終わったことを知り、涙を流していた。


 そして、中山太郎はホームベースの前で膝に手をついた。


 マスクの奥で、何も言えなかった。


 最後まで、止められなかった。


 終わらせない。


 そう思った。


 正捕手として、最後まで戦うと決めた。


 それでも、城南ヶ丘の打線を止めることはできなかった。


 ベンチでは、田中三郎が静かにグラウンドを見つめていた。


 サードの進藤竜也も、ゆっくりと顔を上げる。


 夏が終わった。


 進藤竜也の夏が。


 田中三郎の夏が。


 中山太郎の夏が。


 そして、東鶴間高校の準々決勝は、5対12。


 七回コールド負けという形で幕を閉じた。


 三年生の高校野球人生が、終わったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。