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第220話 城南ヶ丘戦、七回裏、前半

 七回裏。


 城南ヶ丘学園高校の攻撃。


 東鶴間高校のマウンドには伯方歩夢。


 そして、ホームには中山太郎。


 5対10。


 五点差。


 この回、二点を失えば、七回コールドで試合は終わる。


 打席には二番、氷谷幹雄。


 左打席へ入る氷谷を前に、中山はミットを構えた。


 ここで先頭打者を出せば、さらに苦しくなる。


 伯方もそれを分かっていた。


 高速スライダー。


 スローカーブ。


 ストレート。


 緩急を使い、なんとか氷谷を打ち取った。


「アウト!」


 ワンアウト。


 中山は小さく息を吐いた。


 まず一つ。


 だが、安心などできなかった。


 三番、若田部安高。


 右打席に入る若田部を見て、中山は奥歯を噛んだ。


 県内ナンバーワン捕手と呼ばれる男。


 この試合でも、何度も痛いところで打たれている。


(もう……打たせない)


 中山は覚悟を決めていた。


 逃げない。


 怖がらない。


 最後まで、正捕手としてリードする。


 伯方が投げ込む。


 だが――。


 若田部は甘くなかった。


 鋭く弾き返された打球は、外野へ抜ける。


 ヒット。


 ワンアウト、ランナー一塁。


 中山は悔しさを押し殺し、すぐに次の打者へ意識を向けた。


 まだ終わっていない。


 ここで崩れたら、本当に終わる。


 四番、島田弦一郎。


 左打席に入る島田は、この試合、完全に当たっていた。


 中山は資料を思い出す。


(長打はない……)


 だが、目の前の島田は全打席ヒット。


 長打力がないから安全。


 そんな考えは、もう通用しなかった。


(でも、全打席ヒットか……)


 中山は慎重にサインを出す。


 伯方も低めへ投げ込む。


 しかし、島田はまたしても打ち返した。


 ヒット。


 一塁ランナーの若田部が二塁へ進む。


 ワンアウト、ランナー二塁一塁。


 城南ヶ丘ベンチが沸く。


 東鶴間ベンチの空気は重くなる。


 そして、打席には五番。


 花枝正臣。


 右打席へ向かう花枝を見て、中山はミットを握る手に力を込めた。


(終わらせない……)


 胸の奥で、何度も呟く。


(まだ、終わらせない)


 ここで花枝に長打を打たれれば、その瞬間に七点差。


 七回コールドが成立する。


 それはつまり――。


 進藤竜也。


 田中三郎。


 中山太郎。


 三人の高校野球人生が、ここで終わることを意味していた。


 中山は、どうしてもそれだけは避けたかった。


 今日、自分は何度も打たれた。


 何度も迷った。


 何度も城南ヶ丘に崩された。


 それでも。


 最後の最後まで、マスクを被っているのは自分だ。


 九条咲は言ってくれた。


 なにがあっても、うちの正捕手は中山だと。


(だったら……)


 中山は花枝を見据える。


(ここで終わらせるわけにはいかない)


 伯方歩夢も、マウンドで静かに息を整える。


 ワンアウト、ランナー二塁一塁。


 5対10。


 花枝に長打が出れば、試合終了。


 中山と伯方のバッテリーは、崖っぷちに立たされていた。


 コールドになるか。


 ならないか。


 東鶴間高校の夏を繋ぐための勝負が、今まさに始まろうとしていた。

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