第215話 城南ヶ丘戦、六回表、後半
六回表。
スコアは3対9。
ワンアウト、ランナー三塁一塁。
城南ヶ丘学園高校は守備位置の変更を終えていた。
セカンドに山野翔太。
そして、六本遊希は本来の守備位置であるショートへ戻っていた。
東鶴間高校に来かけていた流れ。
それは、まだ完全には消えていない。
打席には九番、六条遊人。
左打席に入る六条は、なんとか繋ごうとしていた。
だが、桐原礼二はそれを許さない。
ストレート。
フォーク。
そして、コースいっぱいを突く投球。
六条は必死に食らいつこうとしたが、最後はバットが空を切った。
「ストライク! バッターアウト!」
三振。
ツーアウト。
東鶴間高校の好機は、少しずつしぼみ始めていた。
そして――。
一番、高柳龍二郎。
左打席へ向かう高柳を見て、捕手の若田部安高はミットを握り直した。
(……これ以上は、打たせない)
高柳龍二郎。
この試合、桐原礼二の球を何度も捉えている打者。
今ここで打たれれば、さらに点差を詰められる。
そうなれば、城南ヶ丘の空気は完全におかしくなる。
若田部も、礼二も、それを理解していた。
礼二は慎重に投げ込む。
外角いっぱい。
内角の厳しいところ。
低めの変化球。
高柳は簡単には手を出さない。
ファウルで粘る。
ボールは見送る。
カウントは、ツーストライク、スリーボール。
フルカウント。
球場の空気が張り詰める。
ランナーは三塁一塁。
ここでヒットが出れば、東鶴間はさらに勢いづく。
礼二は深く息を吐いた。
そして、若田部のサインに頷く。
投げた球は――。
ストライクゾーンぎりぎり、低めのフォーク。
高柳はそれに反応した。
体勢を崩されながらも、バットを合わせる。
打球は二遊間へ転がった。
抜ける。
誰もが、そう思った。
だが――。
ショートの六本遊希が飛びついた。
グラブの先に、白球が収まる。
遊希は倒れ込みながらも、すぐに二塁へ送球した。
二塁ベースに入った山野翔太が捕球する。
「アウト!」
スリーアウトチェンジ。
東鶴間高校の反撃は、ここで止まった。
城南ヶ丘ナインが、一斉に声を上げる。
「遊希!」
「ナイスプレー!」
「助かったぞ!」
さっきまで俯いていた六本遊希は、ゆっくりと立ち上がった。
まだ表情は硬い。
だが、その目には少しだけ光が戻っていた。
ショートなら守れる。
本来の自分の場所なら、まだ戦える。
それを証明したプレーだった。
高橋雪夜は、セカンドの守備位置へ向かいながら、遊希の姿を見ていた。
(やっぱり……ショートなら大丈夫なんだね)
安心したような。
悔しいような。
複雑な感情が胸の奥に残る。
東鶴間に来かけた流れは、六本遊希の守備によって止められた。
そして――。
六回裏。
城南ヶ丘学園高校の攻撃が始まろうとしていた。




