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第211話 城南ヶ丘戦、五回裏、後編

 一点を追加され、なおもノーアウト、ランナー三塁一塁。


 城南ヶ丘学園高校の攻撃は、まだ終わっていなかった。


 三番、若田部安高。


 右打席に入る若田部を前に、中山太郎はミットを構えた。


 だが、もう冷静ではいられなかった。


 何をしてくるのか分からない。


 打ってくるのか。


 バントなのか。


 スクイズなのか。


 それとも、また予想を外してくるのか。


 マウンドの夏目海も、不安そうに中山のサインを見ていた。


 初球。


 外角低めのストレート。


 若田部はバットを構えた。


 そして――。


 送りバント。


 打球は一塁側へ転がる。


 海が処理し、一塁へ送球。


「アウト!」


 若田部はアウト。


 だが、一塁ランナーは二塁へ進んだ。


 ワンアウト、ランナー三塁二塁。


 中山は唇を噛む。


(送りバントかよ……)


 打てる捕手。


 三番打者。


 そう思って警戒していた相手が、今度はあっさり送りバントを決めてきた。


 城南ヶ丘は、点を取るためなら主力でも平気でつなぐ。


 その徹底ぶりが、中山をさらに追い詰めていた。


 四番、島田弦一郎。


 左打席へ入る島田を前に、海は深く息を吸った。


 中山はスクリューを要求する。


 初球。


 内角低めのスクリュー。


 だが、島田はそれを見逃さなかった。


 しっかり踏み込み、引っ張る。


 打球はライト前へ飛んだ。


 三塁ランナーが悠々とホームへ帰る。


 城南ヶ丘、九点目。


 そして――。


 二塁ランナーの坂口拓真も、三塁を蹴っていた。


「ホーム!」


 東鶴間ベンチから声が飛ぶ。


 ライトの天宮真十郎が捕球し、素早くホームへ返球する。


 強い返球。


 中山はホームベース前で構えた。


 坂口が滑り込む。


 中山が捕球し、タッチへいく。


 土煙が上がった。


 一瞬、球場が静まり返る。


 そして――。


「アウト!」


 審判の拳が上がった。


 ホームタッチアウト。


 東鶴間高校は、なんとか二点目を防いだ。


 だが、スコアは1対9。


 八点差。


 試合の流れは、依然として城南ヶ丘にあった。


 しかし、その直後だった。


 ホーム付近で滑り込んだ坂口の様子がおかしい。


 すぐに城南ヶ丘ベンチから、監督と部員が飛び出してくる。


「坂口!」


「大丈夫か!」


 坂口は顔をしかめながら、左手を押さえていた。


 クロスプレーの際に、左手を痛めたらしい。


 球場の空気が少し変わった。


 得点。


 好走塁。


 クロスプレー。


 そして負傷。


 城南ヶ丘にとっても、決して軽い場面ではなかった。


 坂口は支えられながらベンチへ戻っていく。


 その姿を、東鶴間の選手たちも黙って見ていた。


 勝負とはいえ、怪我は望んでいない。


 中山も、ミットを握ったまま坂口の背中を見つめていた。


 ツーアウト、ランナー一塁。


 五番、花枝正臣。


 花枝は大きい当たりを狙っていた。


 このまま試合を決めるつもりだった。


 だが、力が入りすぎた。


 打球は高く上がる。


 センターフライ。


 新井元気が落ち着いて捕球する。


「アウト!」


 スリーアウトチェンジ。


 五回裏終了。


 スコアは1対9。


 東鶴間高校は、八点差をつけられていた。


 さらに城南ヶ丘では、坂口拓真が負傷。


 両校のベンチには、重い空気が流れていた。


 東鶴間にとっては、敗北が近づくような点差。


 城南ヶ丘にとっては、勝利に近づきながらも、仲間の怪我という不安。


 そして――。


 六回表が始まる前。


 球場に、選手交代が告げられようとしていた。

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