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第209話 城南ヶ丘戦、五回表

 五回表。


 東鶴間高校の攻撃。


 打席には八番、田中三郎。


 だが、その時だった。


 東鶴間ベンチから、監督の九条咲が動いた。


「代打、夏目海」


 田中は静かにバットを置いた。


 ここまで、苦しい投球だった。


 打たれ、走られ、粘られ、揺さぶられた。


 それでも、田中三郎はマウンドで戦い続けた。


 だが、もう限界に近かった。


 咲は次の守備も考え、田中を下げる決断をしたのだった。


 代打として送られた夏目海は、田中よりも打撃に力がある。


 だが――。


 相手は桐原礼二だった。


 礼二の速球と変化球の前に、海はバットを合わせることができなかった。


「ストライク! バッターアウト!」


 ワンアウト。


 続く九番、六条遊人も打席へ入る。


 なんとか出塁したい場面だった。


 しかし、礼二と若田部安高のバッテリーは容赦なく低めを突き、六条を打ち取った。


 ツーアウト。


 東鶴間高校は、またしても簡単に二つのアウトを取られてしまった。


 そして打席には、一番・高柳龍二郎。


 左打席へ入る高柳を見て、捕手の若田部はミットを構えながら考えていた。


(……もう、長打でなければいい)


 ここまで高柳は礼二から何度も強い打球を放っている。


 まともに勝負して、また二塁打以上を打たれれば、試合の流れが変わる可能性があった。


 礼二もそれは分かっていた。


 無理に勝負しない。


 際どいところへ投げ込む。


 外角。


 内角。


 低め。


 高柳は簡単には手を出さない。


 そして――。


「ボール、フォア!」


 フォアボール。


 ツーアウト、一塁。


 城南ヶ丘バッテリーにとっては、長打を打たれるよりはましだった。


 二番、高橋雪夜。


 左打席に入る雪夜を、若田部は警戒した。


 高柳だけではない。


 この高橋雪夜も、今日の礼二の球に対応している。


 礼二の投げたストレート。


 雪夜はそれを逃さなかった。


 鋭く振り抜いた打球は、外野へ抜ける。


 ヒット。


 高柳は二塁へ進む。


 ツーアウト、ランナー二塁一塁。


 東鶴間高校に、再びチャンスが訪れた。


 ベンチから声が飛ぶ。


「元気!」


「ここだぞ!」


「つなげ!」


 そして打席には、三番・新井元気。


 元気は左打席へ入り、バットを握り直した。


(なんか……)


 これまでの打席を思い返す。


 初回も。


 三回も。


 礼二は自分に対して、明らかにギアを上げていた。


(オイラの時だけ、礼二さんの球が違うように感じる……)


 気のせいではない。


 マウンドの礼二の目が、鋭くなる。


(……絶対、打たせない)


 礼二は静かにそう思っていた。


 元気が悪いわけではない。


 それでも、礼里のことを思えば、元気にだけは打たれるわけにはいかなかった。


 初球。


 ストライク。


 二球目。


 ファウル。


 またしても、元気は追い込まれた。


 ツーストライク。


 元気は必死に食らいつこうとする。


 高柳が出た。


 雪夜がつないだ。


 ここで自分が打てば、まだ試合は分からない。


 だが――。


 礼二が投げたのは、低めのフォークだった。


 元気は反応する。


 なんとかバットに当てた。


 しかし、打球はショート正面へ転がる。


 ショートゴロ。


 一塁へ送球。


「アウト!」


 スリーアウトチェンジ。


 東鶴間高校は、ツーアウトからチャンスを作ったものの、得点には結びつかなかった。


 元気は悔しそうに唇を噛みながら、ベンチへ戻った。


 礼二は静かに息を吐く。


 また、元気を抑えた。


 そして五回裏。


 東鶴間高校のマウンドには、二番手として夏目海が上がることになった。


 田中三郎から託されたマウンド。


 左腕・夏目海の登板。


 だが――。


 城南ヶ丘打線は、休むことなく牙をむこうとしていた。


 この回、夏目海を襲う強豪校の攻撃が始まろうとしていた。

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