第207話 城南ヶ丘戦、四回表
四回表。
東鶴間高校の攻撃。
打席には五番、浮田総二。
なんとか流れを変えたい場面だった。
だが、桐原礼二と若田部安高のバッテリーは、簡単には崩れない。
浮田は必死に食らいついた。
しかし、差し込まれた打球は高く上がる。
サードフライ。
ワンアウト。
続く六番、進藤竜也。
三年生のキャプテンとして、何とか出塁したい。
だが、礼二の球威は衰えない。
ストレートで押され、最後は変化球にタイミングを外された。
「ストライク! バッターアウト!」
三振。
ツーアウト。
そして七番、中山太郎。
中山はバットを握り、打席へ向かった。
だが、その表情は硬かった。
頭の中には、守備での失点がこびりついていた。
セーフティバント。
盗塁。
バスター。
粘り打ち。
九番打者のホームラン。
低めを狙われたタイムリー。
自分のリードが、ことごとく城南ヶ丘に崩されている。
(俺は……正捕手なのに……)
中山は唇を噛んだ。
(どうすればいいんだ……)
そんな状態で、礼二の球に集中できるはずもなかった。
初球。
ストライク。
二球目。
ファウル。
あっという間にツーストライク。
中山はバットを握り直す。
だが、心が追いついていない。
自分は打席に立っている。
それなのに、頭の中ではずっと守備のことを考えていた。
次の回、どうリードすればいいのか。
どうすれば田中を助けられるのか。
どうすれば、これ以上失点しないのか。
その迷いを、桐原礼二は逃さなかった。
投じられた球は、低めへ落ちるフォーク。
中山のバットは空を切った。
「ストライク! バッターアウト!」
三振。
スリーアウトチェンジ。
四回表。
東鶴間高校は無得点に終わった。
中山はベンチへ戻りながら、俯いていた。
打てない。
守れない。
リードも読まれている。
正捕手として、何も出来ていない。
そんな思いが、胸の中で重く広がっていく。
そして四回裏。
城南ヶ丘学園高校の攻撃。
中山太郎にとって、本当の正念場が近づいていた。
城南ヶ丘学園高校の攻撃前。
守備に向かう前、田中三郎は中山太郎に声をかけた。
「中山」
中山は顔を上げる。
「……なんだ?」
田中は、少しだけ笑った。
「俺にとっては、お前が正捕手だから」
「田中……」
その言葉に、中山の胸が詰まる。
ここまで打たれている。
リードも読まれている。
捕手として、何も出来ていないような気がしていた。
それでも田中は、自分を正捕手と言ってくれた。
「三年間……いろいろあったけどさ」
田中は帽子を被り直す。
「お前とのバッテリー……楽しかった」
中山は一瞬、言葉を失った。
そして、小さく笑った。
「俺も……田中と会えてよかったよ」
二人はそれ以上、何も言わなかった。
ただ、互いに頷き合い、それぞれの守備位置へ向かった。




