第206話 城南ヶ丘戦、三回裏
三回裏。
城南ヶ丘学園高校の攻撃。
スコアは1対4。
東鶴間高校は三回表に、高柳龍二郎と高橋雪夜の連打で一点を返した。
ようやく反撃のきっかけを掴んだ。
そのはずだった。
だが――。
城南ヶ丘の攻撃は、簡単に流れを渡してはくれなかった。
六番、六本遊希。
左打席へ入る遊希を見ながら、中山太郎はミットを構えた。
(……こいつは粘ってくる)
一回裏。
遊希は何球もファウルで粘り、田中三郎の球数を増やした。
簡単にはアウトにならない打者。
それが中山の中にある六本遊希の印象だった。
田中もそれは理解していた。
初球。
外角低めのストレート。
丁寧に投げ込まれた球だった。
だが、遊希はそれを待っていた。
バットを柔らかく出し、逆らわずに流し打つ。
打球は三遊間を抜け、レフト前へ転がった。
ノーアウト、一塁。
中山は思わず歯を食いしばる。
(粘るだけじゃないのかよ……)
粘れる。
選べる。
そして打てる。
城南ヶ丘の下位打線は、やはり甘くなかった。
七番、牧歳数。
牧は確実に送りバントを決めた。
ワンアウト、ランナー二塁。
続く八番、山野翔太。
田中はなんとかセカンドゴロに打ち取った。
だが、二塁ランナーの遊希は三塁へ進む。
ツーアウト、ランナー三塁。
あと一人。
ここを抑えれば、失点せずに切り抜けられる。
中山はそう思った。
だが、打席に入るのは――。
九番、桐原礼二。
右打席に立つ礼二を見て、中山の胸が重くなる。
(……さっき、ホームランにしていた)
九番打者。
投手。
そう思っていた相手に、二回裏でソロホームランを打たれた。
もう油断はできない。
打撃力はある。
それは十分に分かっていた。
田中も同じだった。
高めには投げられない。
少しでも浮けば、また長打にされる。
だから、中山は低め中心に組み立てた。
低く。
丁寧に。
慎重に。
しかし――。
桐原礼二も、それを読んでいた。
(高めには来ない)
礼二は静かにバットを構える。
(なら、低めを打てばいい)
田中の球が低めへ来る。
礼二は踏み込み、鋭く打ち返した。
打球は内野を抜ける。
ヒット。
三塁ランナーの六本遊希がホームへ帰ってくる。
城南ヶ丘、追加点。
スコアは1対5。
東鶴間高校が一点を返した直後に、再び四点差へ戻された。
東鶴間ベンチの空気が重くなる。
せっかく高柳と雪夜が作った反撃の流れ。
それを、城南ヶ丘はすぐに断ち切ってきた。
しかも、また桐原礼二。
投げても抑える。
打っても返す。
城南ヶ丘のエースは、試合の中心に立ち続けていた。
中山はミットを握りしめた。
(くそ……低めでも打つのかよ……)
高めは危険。
低めも打たれる。
なら、どこに投げればいいのか。
中山の中で、迷いがさらに大きくなっていく。
続く一番、泉田陽一郎。
ここでさらに繋がれれば、試合は完全に城南ヶ丘へ傾く。
田中は必死に腕を振った。
中山も何とか気持ちを立て直し、サインを出す。
田中の球が低めへ決まる。
泉田は打ちにいくが、打球は野手の正面へ飛んだ。
「アウト!」
スリーアウトチェンジ。
三回裏終了。
スコアは1対5。
東鶴間高校は、また四点差に突き放された。
四回表。
東鶴間高校の攻撃。
このままでは終われない。
だが、相手は桐原礼二。
そして城南ヶ丘学園高校。
強豪校の壁は、東鶴間高校の前に重く立ちはだかっていた。




