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204/318

第204話 城南ヶ丘戦、三回表、前半

 三回表。


 東鶴間高校の攻撃。


 先頭は九番、六条遊人。


 なんとか流れを変えたい場面だった。


 しかし、桐原礼二の投球は容赦がない。


 六条は鋭いストレートとフォークに翻弄され、あっさり三振に倒れた。


 ワンアウト。


 そして打席には、一番・高柳龍二郎。


 左打席に入る高柳を見ながら、捕手の若田部安高はミットを構えた。


(こいつは、さっきヒットを打っている……気をつけないと……)


 初回。


 高柳は礼二から二塁打を放っている。


 簡単に勝負していい相手ではなかった。


 若田部は慎重にサインを出す。


 初球。


 内角低めのスライダー。


 礼二の球は鋭く曲がったが、高柳は見逃した。


「ボール!」


 二球目。


 外角高めのシュート。


 高柳はバットを出すが、打球はファウル。


 ワンストライク。


 三球目。


 外角のストレート。


 高柳はまたしてもファウルにする。


 ツーストライク。


 若田部は少しだけ息を吐いた。


(追い込んだ……)


 だが、油断はできない。


 高柳龍二郎は、追い込んだからといって簡単に終わる打者ではない。


 そこで若田部が要求したのは、この試合で初めて使う球だった。


 四球目。


 内角低め。


 スローカーブ。


 タイミングを外すための球。


 ストレート、スライダー、シュートを見せた後なら、打者のタイミングは大きく崩れる。


 普通なら、泳がされる。


 普通なら――。


 だが、高柳龍二郎は普通ではなかった。


 わずかに間を作り、身体を残す。


 そして、低めのスローカーブを強引に引っ張った。


 金属音が響く。


 打球はライト方向へ伸びていく。


 外野手が追う。


 しかし、打球はその後ろに落ち、さらに転がった。


 高柳は一塁を蹴る。


 悠々と二塁へ到達した。


「セーフ!」


 ワンアウト、ランナー二塁。


 若田部は思わず目を見開いた。


(マジかよ……初見のスローカーブをツーベースって……)


 タイミングを外したはずだった。


 配球としては悪くなかった。


 だが、それでも打たれた。


 それが高柳龍二郎という打者だった。


 二番、高橋雪夜。


 左打席へ入る雪夜を見ながら、若田部は表情を引き締める。


(こいつも、さっきヒットを打っている……)


 礼二も分かっていた。


 高柳だけを警戒すればいいわけではない。


 雪夜もまた、簡単には打ち取れない打者だった。


 投じられたストレート。


 雪夜は迷わず振り抜いた。


 無理に引っ張らない。


 逆らわず、鋭く弾き返す。


 打球は外野の間を抜けた。


 二塁打。


 二塁ランナーの高柳龍二郎は、迷うことなく三塁を蹴る。


 悠々とホームへ帰ってきた。


 東鶴間高校、ようやく一点。


 スコアは1対4。


 東鶴間ベンチから歓声が上がる。


「よし!」


「雪夜、ナイスバッティング!」


「龍二郎もナイスラン!」


 四点差だった試合が、三点差になる。


 たった一点。


 だが、東鶴間にとっては大きな一点だった。


 桐原礼二から奪った一点。


 城南ヶ丘のエースから、力で奪った一点だった。


 そして打席には、三番・新井元気。


 左打席へ向かう元気を見て、礼二の目が再び鋭くなる。


 初回は三振。


 だが、ここで打たれれば流れは東鶴間へ傾く。


 東鶴間高校も、このまま終わるわけにはいかなかった。


 高柳が打った。


 雪夜が返した。


 次は、元気の番だった。

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