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第199話 城南ヶ丘戦、攻撃前

 一回表。


 ノーアウト三塁一塁というピンチを無失点で切り抜けた城南ヶ丘学園高校ベンチには、静かな熱があった。


 桐原礼二はベンチへ戻ると、仲間たちを見渡した。


「みんな、まずは無失点に抑えた」


 城南ヶ丘ナインは黙って礼二の言葉を聞いていた。


「ここから攻撃となる」


 礼二の声は落ち着いていた。


 だが、その目には鋭さがあった。


「まずは、相手バッテリーを崩していく」


 その言葉に、若田部安高が反応する。


「礼二さん。どうやってですか?」


 礼二は東鶴間ベンチへ視線を向けた。


 その先には、マスクを被る中山太郎の姿がある。


「相手キャッチャーの中山を……揺さぶっていくぞ」


 若田部は少しだけ目を細めた。


「相手捕手を、ですか」


「ああ」


 礼二は頷く。


「簡単な話だ」


 そして、静かに言った。


「打てばいいだけだ」


 ベンチの空気が少し冷える。


「打って、走って、プレッシャーをかける。そして中山の心をへし折る」


 その言葉に、泉田陽一郎が苦笑した。


「礼二さん、相変わらず怖いっすね」


 礼二は表情を変えない。


「陽一郎」


「はいは〜い」


「まずお前が出塁して、足でかき回してこい」


 泉田はバットを肩に乗せ、軽い調子で笑った。


「了解で〜す」


 そのまま、打席へ向かっていく。


 だが、その足取りに油断はなかった。


 礼二は残った仲間たちへ視線を向ける。


「打線は俺が抑える」


 その言葉には、エースとしての自信があった。


「だから、点を取ってくれ」


 城南ヶ丘ナインは、静かに頷いた。


 桐原礼二が抑える。


 ならば、自分たちは点を取る。


 それが城南ヶ丘学園高校の戦い方だった。


 一方、東鶴間高校はまだ知らなかった。


 城南ヶ丘の狙いが、ただ得点を奪うことだけではないことを。


 田中三郎の球を打つこと。


 走者を出すこと。


 揺さぶること。


 そして――。


 捕手・中山太郎の心を崩すこと。


 その作戦が、今まさに始まろうとしていた。


 一回裏。


 城南ヶ丘学園高校の攻撃。


 一番打者、泉田陽一郎が打席へ向かう。


 マウンドには田中三郎。


 ホームには中山太郎。


 東鶴間高校の三年生バッテリーが、強豪校の攻撃と向き合うことになる。


 試合はまだ、始まったばかりだった。

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