第194話 準準決勝、試合前
県大会準々決勝当日。
東鶴間高校野球部の面々は、試合会場となる球場へ到着していた。
空は高く、風は穏やかだった。
だが、選手たちの胸の内は穏やかではない。
相手は城南ヶ丘学園高校。
去年、県大会ベスト8まで進んだ強豪校。
そして、高橋雪夜たちにとって、いくつもの因縁が絡む相手だった。
球場の入口付近で、東鶴間の面々は足を止める。
ちょうど、城南ヶ丘学園高校野球部の選手たちが球場へ入っていくところだった。
統率された動き。
落ち着いた表情。
強豪校らしい空気をまとっている。
その中に――。
桐原礼二。
桐原礼里。
滝橋蓮次郎。
六本遊希。
見覚えのある顔があった。
雪夜は、無意識に拳を握った。
(……礼里)
胸の奥に、昔の記憶がよぎる。
(蓮次郎……遊希……)
かつての幼馴染。
かつての仲間。
かつてバッテリーを組んだ相手。
その全員が、今は敵として同じ球場にいる。
それが、どうしようもなく不思議で、少しだけ苦しかった。
その横で、竹田栄司が呟く。
「総二、広志……今の、遊希だったよな」
白石広志は静かに頷いた。
「そうだね……遊希だったよ」
浮田総二も、いつもの落ち着いた口調で言った。
「そうじゃのう……遊希の姿だったぞ」
竹田は悔しそうに唇を噛んだ。
どうして何も言わずに城南ヶ丘へ行ったのか。
聞きたいことはいくつもある。
だが、それは今ここで聞けることではなかった。
小山唯が、そっと雪夜の顔を覗き込む。
「……雪夜」
「ん?」
「大丈夫?」
その声は優しかった。
幼馴染だからこそ分かる、不安そうな声だった。
雪夜は一度、城南ヶ丘の選手たちの背中を見た。
そして、ゆっくりと息を吐く。
「大丈夫」
雪夜は静かに答えた。
「もう、僕は大丈夫だから」
その言葉に、唯は少しだけ安心したように頷いた。
雪夜はもう一度、前を見る。
逃げるわけにはいかない。
礼里とも。
蓮次郎とも。
遊希とも。
そして、城南ヶ丘学園高校とも。
戦うしかない。
こうして――。
東鶴間高校と城南ヶ丘学園高校。
いくつもの過去と想いが交差する、運命の準々決勝が始まろうとしていた。




