第193話 三年生の決意
県大会準々決勝前日。
東鶴間高校野球部の面々は、軽めの練習で調整を行っていた。
明日は城南ヶ丘学園高校との試合。
去年県大会ベスト8まで進んだ強豪校。
しかも、雪夜たちにとって因縁のある相手でもある。
グラウンドには、いつもより少し張り詰めた空気が流れていた。
休憩時間。
進藤竜也、田中三郎、中山太郎の三年生三人は、少し離れた場所で並んで座っていた。
しばらく、誰も話さなかった。
やがて進藤が、静かに口を開く。
「……明日、とうとう準々決勝だね」
田中は空を見上げる。
「そうだな……俺たちの最後になる試合かもしれないな」
その言葉に、中山も小さく頷いた。
「確かに、相手が格上なのは分かっているからな。最後かもしれない」
三人は、それを冗談にはしなかった。
負ければ終わり。
三年生にとって、それはあまりにも現実的な言葉だった。
進藤はグラウンドを見つめる。
そこでは、後輩たちが練習を続けていた。
高柳龍二郎。
高橋雪夜。
新井元気。
天宮真十郎。
六条遊人。
浮田総二。
竹田栄司。
白石広志。
夏目海。
伯方歩夢。
早田士郎。
そして夏目真衣、小山唯、高柳冬美の3人のマネージャーたち。
気づけば、東鶴間高校野球部はずいぶん賑やかになっていた。
「……思えばさ」
進藤は少しだけ笑う。
「万年一回戦負けだったこの野球部が、去年は四回戦……今年は準々決勝まで来れた」
田中も、中山も黙って聞いていた。
「これは、すごいことだと思うよ」
中山はゆっくり頷いた。
「確かにな」
そして、少しだけ目を細める。
「去年の先輩たちの願いは、叶えたもんな」
去年の三年生たちの言葉。
――俺たちより勝ってくれ。
その願いは、確かに叶えられた。
今年の東鶴間高校は、去年を超えた。
四回戦を突破し、準々決勝までたどり着いた。
それは、胸を張っていい成果だった。
だが――。
まだ終わりたくない。
進藤は静かに言う。
「あとは……どこまで出来るか、だね」
田中は拳を握った。
「そうだな。悔いは残したくないからな」
中山も真剣な表情になる。
「だよな」
そして、自分に言い聞かせるように続けた。
「俺も、正捕手として、出来るだけのことはするさ」
この試合は、田中と中山のバッテリーに託される。
天宮真十郎は投げられない。
高橋雪夜も捕手ではなく、セカンドで出場する。
だからこそ、中山には覚悟があった。
田中と共に、この試合を作る。
正捕手として、最後まで戦う。
進藤は二人を見た。
「明日は……全力を出していこう」
「ああ」
「もちろんだ」
三人は立ち上がる。
そして、再びグラウンドへ戻っていった。
負ければ終わり。
それでも、怖がってばかりはいられない。
進藤竜也。
田中三郎。
中山太郎。
三人の三年生は、それぞれの覚悟を胸に、準々決勝へ向けて最後の練習に戻るのだった。
そして――。
県大会準々決勝の日が、ついにやって来た。




