第191話 城南ヶ丘戦、発表
城南ヶ丘学園高校との試合に向けて、東鶴間高校野球部のミーティングは続いていた。
城南ヶ丘の戦力分析が終わり、部室の空気はさらに重くなっている。
強豪校。
それだけではない。
高橋雪夜にとって、因縁の相手。
そして、東鶴間にとって避けては通れない準々決勝。
その試合に向けて、監督の九条咲は資料を手にした。
「それでは、城南ヶ丘戦のスタメンを発表する」
部員たちの背筋が伸びる。
咲は一人ずつ名前を読み上げていった。
「一番、レフト、高柳龍二郎」
「二番、セカンド、高橋雪夜」
「三番、センター、新井元気」
「四番、ライト、天宮真十郎」
「五番、ファースト、浮田総二」
「六番、サード、進藤竜也」
「七番、キャッチャー、中山太郎」
「八番、ピッチャー、田中三郎」
「九番、ショート、六条遊人」
以上が、城南ヶ丘学園高校戦のスタメンだった。
天宮真十郎は、ライト。
高橋雪夜は、セカンド。
バッテリーは、田中三郎と中山太郎。
その意味を、部員たちはすぐに理解した。
大王高校戦。
天宮は九回まで投げ抜いた。
強豪相手に勝利をもぎ取った代償として、疲労は限界に近かった。
この状態で投げさせることはできない。
怪我のリスクを考えれば、当然の判断だった。
だが、天宮には打撃力がある。
四番を任せられる力がある。
だから、投手ではなく外野手として起用する。
そして――。
田中三郎と中山太郎。
三年生バッテリー。
負ければ、三年生にとって最後の試合になる。
九条咲には、この二人を外すことはできなかった。
中山は静かに拳を握る。
田中も、いつもより表情が硬かった。
進藤は落ち着こうとしていた。
雪夜は三人を見ていた。
(田中先輩……中山先輩……進藤キャプテン……)
ここで勝たなければ、三人の夏は終わる。
その事実が、部室の空気を重くしていた。
咲は全員を見渡す。
「天宮は投げさせない。怪我をさせるわけにはいかないからだ」
天宮は黙って頷いた。
悔しくないはずがない。
エースとして投げたい気持ちはある。
それでも、自分の状態は自分が一番分かっていた。
「ただし、打者としては出てもらう。お前の打撃は必要だ」
「はい」
天宮は短く返事をした。
咲は次に、田中と中山を見た。
「田中。中山」
「はい」
「はい」
「この試合、任せる」
その言葉に、二人の表情が変わった。
田中は深く息を吐き、中山は真っ直ぐ咲を見た。
「任せてください」
中山の声には、覚悟があった。
雪夜はその横顔を見ていた。
これまで何度も悩んできた中山。
捕手としての自分と、雪夜との差に苦しんできた中山。
だが、この試合は中山の試合でもある。
三年生として。
正捕手として。
田中三郎と共に戦う最後の夏として。
咲は静かに言った。
「城南ヶ丘は強い。だが、ここまで来た以上、勝つつもりで戦う」
部員たちは黙って頷いた。
「以上だ。練習を再開する」
その後、東鶴間高校野球部はグラウンドへ戻った。
いつも通りの練習。
いつも通りの掛け声。
だが、全員の胸の中には不安があった。
天宮真十郎が投げられない。
たったそれだけのことが、これほど大きいとは思わなかった。
大王高校を抑え込んだ、天宮と雪夜のバッテリー。
その切り札を使えないまま、城南ヶ丘と戦わなければならない。
準々決勝。
因縁の相手。
そして、三年生にとって最後になるかもしれない試合。
東鶴間高校野球部は、不安を抱えながらも、来たる決戦へ向けて練習を続けるのだった。




