第190話 城南ヶ丘戦、作戦会議
東鶴間高校野球部の面々は、城南ヶ丘学園高校戦に向けてミーティングを行っていた。
準々決勝。
ここまで来れば、相手はどこも強い。
だが、城南ヶ丘学園高校は、それだけではなかった。
高橋雪夜たちにとって、因縁のある相手でもあった。
最初に口を開いたのは、マネージャーの夏目真衣だった。
「みなさん、城南ヶ丘の戦力なんですが……」
全員が資料へ視線を向ける。
「城南ヶ丘は去年、県大会ベスト8まで行った強豪校です。二年前に桐原礼二さんが入学してから、強くなったらしいです」
桐原礼二。
その名前が出た瞬間、雪夜の表情がわずかに動いた。
真衣は続ける。
「桐原さんがエースで、球速は149キロ。決め球はフォーク。他にスライダー、スローカーブ、シュートを投げます。コントロールも良く、桐原さんから何点取れるかの勝負になります」
部室の空気が引き締まる。
149キロ。
大王高校の外藤祐吉郎にも劣らない球速。
しかもコントロールも良い。
間違いなく、県内屈指の投手だった。
九条咲が静かに言う。
「そうか……桐原礼二と言ったら……雪夜」
「はい」
雪夜は頷いた。
「この前、一緒に来ていた桐原礼里の兄です」
咲は小さく頷く。
「なるほどな」
すると、真衣は次の資料へ目を向けた。
「それと……二番手ながら、かなり厄介な投手がいます」
その言葉に、部員たちの視線が再び集まる。
「二年生の滝橋蓮次郎君です。コントロールがすごく良くて、変化球はスライダー、カーブ、シンカー、シュート。技巧派の投手です」
真衣は少し表情を曇らせた。
「桐原さんを打ち崩せても、滝橋君が控えています……正直、苦戦はします」
その名前を聞いた瞬間、新井元気が雪夜を見た。
「雪夜、もしかして……」
雪夜は、わずかに目を細める。
「そのまさかだね」
そして、静かに言った。
「あの蓮次郎だろう」
咲が雪夜を見る。
「雪夜、知り合いなのか?」
「……小学生の時のチームで、バッテリーを組んでいました」
部室に小さなざわめきが起こる。
雪夜がかつてバッテリーを組んでいた投手。
その相手が、今は城南ヶ丘の二番手として待っている。
それだけでも、この試合がただの準々決勝ではないことは明らかだった。
真衣はさらに説明を続ける。
「それから打線なんですが……城南ヶ丘は、どちらかと言うとバランスが取れたチームです」
資料をめくる音が部室に響く。
「捕手の若田部安高君は二年生で、県内ナンバーワン捕手と呼ばれています。彼の能力は高いので、気を付けていきましょう」
九条咲は腕を組んだ。
「バッテリーがいいのか……これは要注意だな」
「はい」
真衣は頷く。
「それから、遊撃手ながら今は外野で出場している一年生、六本遊希君が厄介です。粘り打ちが得意で、打率も良い方です」
その名前に、白石広志が反応した。
「遊希が……城南ヶ丘に……」
咲が白石を見る。
「どうした、白石。知り合いか?」
「はい……中学の時のチームメイトです」
その言葉で、野球部の面々は気づいた。
六本遊希。
彼は白石だけではない。
高橋雪夜。
新井元気。
小山唯。
竹田栄司。
浮田総二。
彼らとも中学時代のチームメイトだった。
竹田栄司が、悔しそうに呟く。
「遊希……どうして俺たちに内緒で、城南ヶ丘に行ったんだよ」
浮田総二は、静かに言った。
「仕方ないじゃろう……遊希にも言えないことがあるんじゃよ」
その言葉に、竹田は何も言い返せなかった。
誰にだって、言えない事情はある。
それでも、かつての仲間が敵として立ちはだかることに、胸がざわつくのは仕方なかった。
九条咲は全員を見渡した。
「とにかく、城南ヶ丘が強いのは分かった」
そして、資料を置く。
「ここから、スタメンを発表する」
部室の空気が、さらに引き締まった。
城南ヶ丘学園高校との運命の試合。
雪夜にとっても。
元気にとっても。
唯にとっても。
そして、かつての仲間たちにとっても。
避けては通れない一戦に向けて、スタメン発表が始まろうとしていた。




