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第187話 偵察帰りの桐原兄妹

 東鶴間高校野球部の偵察を終えた桐原礼二と桐原礼里は、城南ヶ丘学園高校へ戻る道を歩いていた。


 しばらく、二人の間に会話はなかった。


 先ほどの出来事が、礼里の胸に重く残っていた。


 そして、耐えきれなくなったように、礼里が口を開く。


「……兄さん」


「ん?」


「ごめんなさい」


 礼二は少しだけ妹を見る。


「別に、謝ることはないぞ」


「でも……」


 礼里は視線を落とした。


「私が雪夜を挑発していたから……途中で、雪夜に殴られるかと思ったんだ」


「……そうか」


「もし、マネージャーの私が暴力沙汰にしていたら……みんなの努力が無駄になると思って……」


 礼里の声は、少し震えていた。


 強がっていた。


 あの場では、平気なふりをしていた。


 だが本当は、礼里も分かっていた。


 自分が、言い過ぎたことを。


 雪夜を傷つけたことを。


 礼二はしばらく黙っていた。


 そして、静かに言う。


「でも、何も起こらずに済んだ」


「……うん」


「だから、謝るな」


「……兄さん」


 礼里は顔を上げる。


 礼二は前を向いたまま続けた。


「礼里。お前と雪夜に何があったのかは……聞かないでおく」


「……うん」


「でもな」


 礼二は少しだけ歩く速度を緩めた。


「どんなことになっても、俺はお前の味方だからな」


 その言葉に、礼里の表情が揺れた。


「……ありがとう、兄さん」


 礼二は照れくさそうに鼻を鳴らす。


「それに……礼里が殴られるところなんて、俺は見たくない」


「兄さん……心配かけて、ごめん」


「いいよ」


 礼二は穏やかに言った。


「妹を守るのは、兄である俺の役目だから」


 礼里は何も言えなかった。


 ただ、隣を歩く兄の存在が、どうしようもなくありがたかった。


 礼二は頼りになる。


 改めて、そう思った。


 やがて礼二が前を見ながら言った。


「さて……そろそろ着くぞ」


「うん」


「俺たちの学校が」


 二人の視線の先に、城南ヶ丘学園高校の校舎が見えてきた。


 こうして桐原兄妹は、自分たちの学校へ戻っていった。


 準々決勝。


 東鶴間高校と城南ヶ丘学園高校。


 その試合は、ただの野球の試合では終わらない。


 それぞれの過去と想いが交差する試合になろうとしていた。

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