第171話 三回戦、前半
三回戦当日――。
東鶴間高校野球部の面々は、球場へと到着していた。
ベンチでは、それぞれが準備を進めている。
いつも通りに見える空気。
だが、その中で――正捕手の中山太郎だけは、どこか落ち着かなかった。
(……この試合、一回戦と同じことは出来ない……)
一回戦。
田中とのバッテリーで五失点。
他の投手たちでも三失点。
そして二回戦では、高橋雪夜と天宮真十郎のバッテリーが完封勝利を収めた。
結果だけ見れば、違いは明らかだった。
だからこそ、中山は焦っていた。
それでも――。
(監督は、俺を正捕手って言ってくれた……)
九条咲は、自分を信じてくれている。
ならば、その期待に応えたい。
中山はそう思っていた。
やがて球場入りを終え、東鶴間高校野球部の面々はベンチに集まる。
監督の九条咲が、静かに口を開いた。
「みんな……三回戦だ」
その声に、部員たちの空気が引き締まる。
「二回戦までとは、相手の強さも上がって来る……だが、それはどこも同じだ。みんな、気を引き締めていけ」
野球部の面々は、静かに頷いた。
そして――試合開始。
一回表。
田中三郎と中山太郎のバッテリーは、先頭打者に出塁を許した。
だが、慌てることなく後続を打ち取り、無失点で切り抜ける。
最後の打者をアウトにした瞬間、中山は小さく息を吐いた。
(よし……なんとか無失点……)
その表情には、わずかな安堵が浮かんでいた。
そして一回裏。
一番、高柳龍二郎。
高柳は初球から鋭く振り抜き、打球を右中間へ運ぶ。
二塁打。
東鶴間の流れを作る一打だった。
二番、高橋雪夜は冷静に送りバントを決め、一死三塁。
三番、新井元気がセンター前へ運び、東鶴間が先制する。
さらに四番の浮田総二、五番の竹田栄司も続き、この回二点目。
東鶴間は、幸先よくリードを奪った。
二回表。
田中は落ち着いた投球を見せ、この回も無失点。
中山はマスク越しに、小さく拳を握った。
(よし……俺でも、ゲームを作れる……)
だが――。
三回戦まで勝ち上がってきた相手も、簡単なチームではない。
本当の勝負は、ここからだった。
この時の中山太郎は、まだそのことに気づいていなかった。




